第35話 飛来したものがやばすぎる
「ふぅ、食った、食った。もう食えないな」
「うん、わたしもお腹いっぱい。あー、ミーちゃん寝ちゃったよー」
腹が膨れたミーちゃんが、テーブルの上で丸まってスピスピと寝息を立てていた。
「天気もいいし、暖かいし、腹も膨れれば眠気も来るさ」
「そろそろ帰りますか。孤児院のみんなへのお土産も買ってきたことですし」
屋台へ食器を返しに行っていたミュースが紙袋を抱えて戻ってきていた。
漂う甘い匂いからきっと中身はお菓子の類だと思われた。
キララの鼻がピクピクと動くのが見える。
甘いものは別腹とはいえ、あれはみんなへのお土産だから食べちゃダメだぞ。
「ママー、それ何ー」
「リーシェーンというお菓子ですよ。甘いので孤児院の子たちも大好物なの。今日はもういっぱい食べたから明日孤児院でみんなと一緒に食べましょうね」
ミュースが見せた菓子はチョコクッキーっぽいものである。
とても子供たちが好きそうなお菓子であることは理解できた。
「キララ、今日は夕飯もあるし、お菓子はもう食べちゃダメだぞ」
「ううー、分かった。明日まで我慢するー」
我が家の天子様は意外と食い意地が張っているのであったとさ。
でも、屋台で買った昼飯を食ったのに、デザートがあの身体のどこに消えるのか……。
俺がキララの人体の不思議に首を捻っていると、警戒用に発動させていた
ミーちゃんと同じ
敵脅威度Sランクっ!? なんじゃこりゃああっ! 該当魔物……魔王だとっ!?
王都内に魔王クラスの魔物の存在を感知していた。
「ママ、ちょっと尋ねるが魔王が王都に現れるのが風物詩というのはないよな?」
「な!? そんな危険な事態になれば王国軍を総動員して防衛戦闘しますよ。パパはいきなり何を言い始めるんですか、まったく」
とりあえず、魔王が来襲するのがアレフティナ王国の風物詩でないことはミュースから確認が取れた。
その言葉を聞いて俺は
膨大に魔力を消費するが、物理、魔法の攻撃を九割九分九厘カットできる大技だ。
「そうかならいいんだ。ちょっと、困った事態がーー」
さきほどまで数キロ以上先だった魔王が、いきなり俺たちの目の前に移動してきていた。
転移魔法かっ!
「うぅ、お腹しゅいたの……」
目の前には、銀色の短い髪に赤い目をした三~四歳の幼女が涎を垂らしてこちらを見ている。
着ている服は上等そうだが、長く着替えていなさそうでボロボロになっていた。
咄嗟に俺はキララとミュースを守るため、その幼女の前に進み出た。
「お、おい。お前、魔族か? なんでココにいる!?」
「ふぇ、ふぇ、ふぇぇええええええっ!! びぇええええええええっ!! なんで怒るのぉ、びぇええええええっ!!」
魔王クラスの力を持つ幼女から家族を守ろうと凄んだ顔をしたら、大号泣されてしまった。
背後にいたキララがサッと俺の前に出て、泣いている幼女の頭を撫でていた。
「泣かなくていいよ。パパが怖い顔してごめんね。怖かったよね。ごめんね」
「うぅうう、こわいの、おじさん、こわい」
銀髪の幼女はキララの抱き着くと、胸に顔を埋めて泣いていた。
「パパぁー、苛めちゃダメだよ」
「い、いや私はだなぁ。その子が……」
魔王クラスの力を持っていると言いたかったが、キララの視線がそれを言うことを憚らせた。
とはいえ、目の前の幼女は
「いい子だね。パパには怒らないでねって頼んだから、お名前教えてくれるかな?」
泣いている幼女をあやしているキララは何だかお姉ちゃんっぽかった。
こ、これは! 『
孤児院でも年少組の面倒をみていた人気者のキララであるが、泣きじゃくる幼女にも優しく宥めている。
「うぅ、うぅ、エル」
「ん? エルちゃんって言うの?」
「うん、エル。エルを連れてきた人はそう言ってた。だから、エル」
エルと名乗った幼女の腹が可愛らしい音を鳴らす。
「エルちゃん、お腹空いてるの?」
「うん、しゅいた」
キララが俺を見て『パパ、この子にご飯奢ってあげて』的な視線を送ってくる。
だが、キララよ、その子は――
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