第24話 そろそろ脱箱入り娘も考えないと


「そんなこと言って。パパも食べるの早いよー」


 さすが我が娘、見破っていたか。


 だが、私もミーちゃん争奪戦に負けるわけには行かないのだよ。


「二人ともー。きちんと四〇回ほど咀嚼してくださいねー」


 増えたぞ! ミュース! 今、お前回数増やしただろ! 四〇回とかないわぁ。


 クソ―、顎疲れるー。


 ミュースのやつコレを見越して歯ごたえのある料理を……。


 は、謀ったな! ミュース!


 俺を見ていたミュースの単眼鏡モノクルがキラリと光り、『フフーン、我が策成れり』と言いたげな顔をしていた。


「ごちそうさまー。ミュースさん、きちんと残さずに四〇回咀嚼して食べたよー。ほらー」


 キララが空になった食器をミュースに見せる。


 アレだけあった歯ごたえのある食事を咀嚼しきったキララの顎の強靭さには驚きだな。


 これが、ミーちゃんへの愛の力か……。


「分かりました。では、キララ様、こちらへどうぞ。一緒にミーちゃんにご飯をあげましょう」


「やったー! ミュースさん、大好きー! ミーちゃん、お待たせー」


 クッ、俺だけ仲間外れになっちまうぜ。


 待ってろ、ミーちゃん! 絶対にコレを食い切って、モフモフタイムを獲得するからなっ!


 俺はさらにペースを上げて自分の皿に残った食事を勢いよくかき込むと、顎の筋肉を総動員して食事を片付けたが、ミーちゃんのもとに駆け付け時にはすでに食事タイムを終えて眠ってしまっていた。


「ミ、ミーちゃん……そんな、頑張って咀嚼して食べたのに……」


 俺はがっくりと肩を落とす。


 期待した癒しのモフモフタイムはお取り上げになってしまったようだ。


「残念ですが、眠ってしまった以上、起こすわけには参りません」


「ミュースさん、またミーちゃんが起きたら一緒に面倒みようねー」


「仕方ない。お楽しみは取っておくことにした。そうだ! 明日はミーちゃんに合う首輪を買いに行くとしよう。キララも王城の外は初めてだろ」


「え!? いいの! 王城の外に出ていいの!」


 そんなに期待を込めた目をキラキラさせて俺を見るんじゃない。


 俺だってキララを箱入り娘に育てる気はないんだぜ。


 王都で色々と社会勉強をしてもらおうとか考えたんだ。


「たまには訓練や勉強以外のことに時間を費やしてもいいと思うぞ。いいですよね? ミュース殿?」


「そうですねぇ……。どのみちキララ様が飼うミーちゃんの首輪は必要ですからね。教育係のわたくしとドーラス師も同行するという条件付きなら、許可してもよろしいかと思います」


 ミュースもなんだかんだ言ってキララには激甘だからな。


 たまにはキララにお休みも必要だと思ってくれたようだ。


「やったぁ!! ミュースさんも一緒だー! パパ、明日はミーちゃんも一緒にみんなでお買い物だね!」


「キララ様、ついでに夏に向けたお召し物も色々と見て回りましょう。王妃様から頂ける服はどれも高級すぎて、鍛錬の時に汚してしまうのは勿体ないと思いますので、街で良さげな服を見繕おうと以前より思っておりました。お時間は大丈夫ですよね? ドーラス師も?」


 そういえば、やたらと高級な絹の服を惜しげもなく鍛錬の時に着ていたな。


 アレフティナ王国が裕福だとはいえ、普段着にしていい服ではなさそうだし、ミュースにそのへんを見繕ってもらうのもいいか。


「分った。私もアドリー王より筆頭宮廷魔導師に任じられているが、今は重病者もいないし、時間はあるから大丈夫。できれば、キララがそのうち一人で買い物をできるように色々と教えてやって欲しい」


「お、お買い物!? わたし、お買い物するの初めてだよ! あぁ、楽しみだなぁ、早く明日にならないかなぁ」


 キララの目のキラキラ度が上がっていた。


「キララも勇者として一人でお買い物をできないと、討伐に向かった先の村で食料とか消耗品が買えないからな。物の値段をキチンと知るのも大事なことだぞ」


「はーい。『お買い物』で勉強する!」


「では、今日は早めにお休みになられた方がよいでしょう。キララ様、さぁ就寝のご準備を」


「私は自室に戻る。キララ、明日が楽しみだからって夜更かしはしちゃダメだからな」


「はーい。歯磨いてくる」


 明日、買い物に行く約束をすると、俺はキララの居室を後にして自室に戻ることにした。

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