第22話 女の涙はよく分からん・・・・


「あー、すまん。言い過ぎたかもしれん……。私はお前のことを全く知らないのにな……すまん……」


「あー! ミュースさんが泣いてるー! パパ、いじめちゃダメー!」


 タイミングの悪いところで湯をもらいに行っていたキララが部屋に戻ってきていた。


 どうも、キララには俺がミュースをイジメて泣かせていたように見えたようだ。


 冤罪だ……とはいえないか……泣かせたのは事実だしな。


「すまん、キララ。もう、いじめない」


「ミュースさん、泣いたら嫌だよー。キララ、いい子にするからー。ねー」


 戻ってきたキララが、心配そうにミュースに抱き着いていた。


「キララ様、これは違います。違いますからっ! わたくしの目にゴミが入っただけですから! ドーラス師、子猫に引き続き回復魔法を。キララ様は、湯で濡らした布で子猫の目ヤニを拭ってください」


「お、おぅ」


「はーい、わたしは一生懸命にねこちゃんの目ヤニ取るねー」

 

 俺が回復魔法を子猫にかけつつ、キララが目ヤニで開かなくなっていた目を布で拭って綺麗にしていく。


 俺たちはそれぞれに子猫を助けるための役割を一生懸命に果たした。


「みー、みー」


 しばらくして毛布に包まっていた子猫は、震えるのをやめた。


「どうやら回復魔法が効いてきたようだな。安心はできないが、山は越えたと思う」


「目ヤニも取れたよ。ねこちゃん、大丈夫かなー」


「キララ様、ミルクを与える手伝いをお願いします。スポイトを口元に」


 ミュースが子猫の口元に当てたスポイトから、数滴を口に垂らしていく。


 一気に飲ませると、むせて気管に入る可能性があるので、ミュースも慎重であった。


「ミュースさん、キララがやっても大丈夫かな……」


「慎重に数滴ずつ、子猫がしっかり飲み込むのを見届ければむせたりはしないはずです」


 スポイトを渡したミュースがキララの後ろに立って、子猫にミルクを飲ませるのを見守っていた。


 さきほど見せたミュースの泣き顔は一応引っ込んだか……。


 上辺だけ冷静さを取り繕っているようにも見えるが、やはりさっきのミュースの『子殺し』の言葉が気になってしまう。


 あとでリーファ王妃にミュースのことを聞いておいた方がいいな。


 一緒にキララを育てる同志だからな……彼女の過去に何があったか知っておくことくらいはしておいた方がいいだろう。


「ねこちゃん、ミルク飲んでー。あっ、飲んでくれたー。飲んでくれたよー。ミュースさん、パパぁ!」


 子猫はスポイトから垂れるミルクを舐めて、『みー、みー』と鳴いていた。


 元気こそないが、飯が食えるようになれば、体温と健康に細心の注意を払っておくことが大事になってくる。


 しばらく子猫はミルクを舐めていたが、やがて腹が満ちると毛布に包まったまま眠ってしまった。


「眠ってしまったようですね。まだ、子猫ですし、衰弱した子ですから目を離さない方がいいと思いますので、当番で誰かが付いて面倒を見た方がよろしいかと。ドーラス師もお手伝いしていただけますよね?」


「え!? 私もか?」


 いつもの仮面を被り直したミュースが『この責任は一緒に取ってもらえますよね?』的な視線を俺に送ってきていた。


「パ、パパ……お手伝いしてもらっても……いい? キララも一生懸命にお手伝いするから、お願い」


 こ、こら、キララよ。


 瞳をウルウルとさせ『パパが手伝ってくれると安心だなー』って目で見るんじゃない。


 子猫を助けるとは言ったが、面倒を見るのを手伝うとは一言も――。


 ずずいっと、俺の方に毛布に包まった子猫を押し出してくるな。


 こう見えても、俺は意外と猫スキー派なんだぞ。


 ラブリーな子猫を見せられたら『チッ、しょうがねぇから面倒みてやらあ』って言っちまうだろう。


 いや、すでに言っちまったも同然か……。


 キララに『助ける』って言っちまったからなぁ。


 約束を守れねえ父親代わりってのは格好が悪すぎるか。


「分かった。私もお手伝いさせてもらうことにしよう」


 俺はキララの頭をわしゃわしゃと撫でると、子猫の世話に参加することにした。

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