第19話 手を繋ぐのはまだ早い!!
「それはキララが魔王を討伐した後で選ぶことですから……」
俺はリーファ王妃の問いの答えを誤魔化すことしかできなかった。
キララの幸せを考えれば、こっちで生活をしていた方が俺自信もサポートができるし、彼女も安楽に暮らせる環境が整っているか……。
「うわー! アドリー王、強いー! ほらーカイン君もアベル君も頑張って! わたしも行くよー!」
「ぬぅんっ! まだまだ、小僧っ子どもに後れを取るわしではないわ! フハハハ!」
「キララが危ない! アベル! 守るぞ!」
「キララ様は僕が守る!」
「「「「キララ様ーがんばえー!!」」」」
目の前ではカインとアベルに守られたキララがアドリー王との打ち合いを再開し、その様子を幼い孤児院の子たちが必死に応援をしていた。
「キララちゃん、頑張ってー! 一本取れたら、アドリーのお小遣いから、孤児院の女の子には可愛いドレス一着と男の子には剣を一本作ってあげるわよー」
「うぬぅっ! これはわしの小遣いを守るため負けられぬ戦いとなったな! キララ、カイン、アベル! いざ勝負!」
「ここは僕に妙案がありますっ! みんなで一緒にアドリー王を押さえ、キララ様に最後の一太刀を入れてもらうのです」
「おお、それいいな。よっし、年少組も手伝ってくれ! 目指すはアドリー王だ!」
アベルの提案にカインが応え、近くで見ていた年少組を動員して、アドリー王を押し囲んで動けなくさせていた。
「うぬぅ! 卑怯な! だが、まだだ! やらせはせん! やらせはせんぞー!!」
おしくらまんじゅう状態になったアドリー王だったが、相手が子供だということでさすがに手加減をしてくれている。
「キララ、今だ。アドリー王に一太刀を入れてくれ!」
「う、うん! みんなのお手伝いを無駄にはしないからねー。アドリー王、かくごー!」
子供たちにしがみつかれて動けなくなっていたアドリー王の身体にキララの木剣が触れた。
「うぬぅうう! 参った! わしの負けだ……。約束通り、わしのお小遣いから女の子には綺麗なドレスと男の子には剣を贈るとしよう……。これでしばらくの間はタダ働きじゃのう」
「やったー! みんなありがとー! みんなのおかげでアドリー王から一本とれたよー!! アドリー王からのプレゼント楽しみだねー」
「「「やったー!」」」
キララが孤児院のみんなと喜び合い、なんとも微笑ましい姿をしていた。
「さぁ、じゃあ次はドーラス師から一本取ったら、おいしいお昼ご飯にしましょう! さぁ、みんな頑張ってね!」
アドリー王から一本を取って喜んでいた子供たちへ、リーファ王妃が次なる標的を告げていた。
ちょっと、おばさん。何言っちゃってくれてるのさ。
リーファ王妃の言葉を聞いた途端、喜んでいた子供たちの眼の色が変わる。
「パパを倒せば、おいしいご飯……じゅるり……」
「ドーラス師は強いですからね。策を考えねば……じゅるり……」
「みんなで行けば、ドーラス師も倒せるさ。……じゅるり……」
キララを筆頭にみんな飢えた獣のような目をするんじゃない。
おじさんを倒してもおいしくないぞ。いや、倒したらおいしい食事が出るか……。
まずい、これは非常にマズいぞ。
「では、わたくしからも褒賞を出しましょう。ドーラス師から一本取れたら、おいしいデザートを提供させて頂くことにしましょう」
隣にいたミュースが、火に油を注ぐ発言をする。
「パパ、倒す、おいしいご飯、デザート、食べる……じゅるり……」
キララよ、なぜ片言になる。
それに、女の子なんだから涎は良くないと思うんだ。
エレガントさが売りの女の子だろ。
その恰好はどう見ても蛮族に見えるんだ。
「ま、待て! 話し合おう! 君たちは文明人だろう。話し合うことできっと私たちは理解しあえると思うんだ」
「ドーラス師、倒す、わし、おいしいメシ、デザート食う! 話し合い、余地ない!」
ちょっと、アドリー王さん! なんで、あんたまで参加しているんですか!?
「こうしょうけつれつー。さぁ、みんな行くよー。目指すはパパの首ー! とつげきー!」
俺が戸惑っている間に、交渉(なかった気がするが)は決裂し、なぜか戦闘に入っていた。
まずはアドリー王と同じように年少の子供たちが、俺の身体を押さえにくる。
俺はアドリー王と違い、簡単に掴まってやるほどのお人よしではないので、すっと身体を避けた。
「捕まらなければ、どうということはないっ!」
「さすが、ドーラス師。素早いですね。なら、僕はこうします!」
アベルが懐から出した鏡を反射させ、俺の視界を奪ってきた。
うお! 眩しい。
この小僧、目潰しとは小癪な真似を……。
ならば、こちらも視界を奪わせてもらうこととしよう。
この際、大人げないと言われても元最強召喚勇者の名にかけて負けるわけにはいかないのだ。
「
「うわぁ! 真っ暗だよー。何にも見えない! パパどこー! カイン君、アベル君、アドリー王、みんなーどこー!」
「落ち着くのだ! 近くの者たちは手を繋げ、ドーラス師はこの霧の中に潜んでいるはずだ」
むっ! 歴戦のアドリー王がいたのが誤算だったか。
年少組やキララたちは視界を奪えば降参するかと思ったが、アドリー王のアドバイスに従い意外と耐えたらしい。
「みんな手を繋いで輪っかになって縮めていこう。そうしたら、ドーラス師の位置がわかるはずです。キララ様、カイン。僕の手を」
「そっかー。アベル君、頭いいねー。声のする方にいるのかなー。手を繋ごうー。カイン君もー」
「おお、キララ。俺はこっちー」
アベルのやつ、子供かと思ったが意外と知恵が回るやつだな。
そうやって闇の中で隣同士の輪を作られて、縮められたらこっちの位置を捕捉されてしまう。
だが、それよりもだ! カインにもアベルにもキララと手を繋ぐのを許した覚えはまだない!!
うちの娘の手を握るにはまだ一〇年早いっ!!
「そうはさせるか!
俺は地面に向かって風魔法を発動させると、辺りに漂っていた黒い霧を吹き飛ばしていた。
きちんと威力を弱めて、年少組が怪我しないようには配慮しておいたがな。
まだ、キララと手を繋ぐのには、男としての経験値が足らんのだよ。
「みんなだいじょうぶー? 怪我はしてない?」
「大丈夫みたい。それよりもドーラス師が姿をあらわしたぞ」
「また魔法で逃げられる前に掴まえた方がいいですよ。キララ様、みんなに号令を」
「はーい! いっくよーとつげきー!」
「「「わぁあ!!」」」
姿を現した俺に対してキララの突撃命令が下った。
まぁ、その後のことはアドリー王と同じ末路を辿ったとだけ伝えておく。
俺としてはキララと男の子が手を繋ぐのを阻止できただけで満足であった。
帰り際にミュースから『まったく、大人げない。やっぱり、ドーラス師はキララ様を溺愛しすぎですね』とチクリと言われたが、嫌なものは嫌だからしょうがない。
世のお父さん連中が『娘に彼氏を紹介されるのが嫌』っていう気持ちが、今ならめちゃくちゃ理解できる。
カインもアベルもキララと手を繋ぎたかったら、俺に拳で勝ってからにして欲しいものだ。
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