第18話 娘にできた男友達とか気になってしょうがない
それから一ヵ月、キララは王宮内で基礎的な剣技や魔法、読み書きの練習を続けていた。
「「「キララ様ー! がんばれー!」」」」
「キララ殿、まだまだ踏み込みが甘いぞ。これでとうだ!」
「あー、剣が! うー、参りました。アドリー王様、強いー」
「ハハハッ! これでも王太子時代は剣士として最前線で魔物と戦っておったのだ。わしは剣にはちとうるさいぞ」
今日はアドリー王自らがキララの剣の相手をしていた。
ただ、キララ一人だけではなく、孤児院の子供たちの中で剣を学びたい者たちが一緒に参加している。
この王は本当に子どもたちが大好きだな。
「カイン君、アベル君、アドリー王めちゃくちゃ強いよー。きっと二人も勝てないと思う」
「へへっ! 言ってくれたな。キララ様、俺がアドリー王に負けるわけないじゃんかー」
「僕も負ける気はしないです。キララ様」
「ほぅ、カインもアベルもわしに勝てると申すか。ならば、少し本気を出すか」
キララと同じくらいの歳の男子二人がアドリー王に打ちかかっていく。
確か二人は孤児院で同じクラスの二人だったはずだ。
むむ、キララに男友達ができたのか……。
キララ、まだ男の子の友達を作るのは早いとパパは思うぞ。
こういうのは、じっくりと段階を踏んでだなー。
「ドーラス師、顔が険しくなっておりますが、もしかしてキララ様にできたご学友に妬いていらっしゃいます?」
「そ、そんなことはないぞ。うん、キララに友達ができてよ、よかった」
隣で一緒にキララの稽古を見ていたミュースから投げかけられた質問に、俺は言葉がどもってしまっていた。
でも、父親としては娘に男友達ができると普通心配するだろー。
ミュースは心配じゃないのかよ。
俺は口から出そうになった言葉を飲み込んだ。
「父親としては、あの男の子たちをキララ様のご学友と認めたくないのでしょう」
「私の内心をさらりと読むのはやめていただけますかな。キララにとって友達ができるのは健全な発達をしているという証ですよ」
この一ヵ月、父親代わりで色々と面倒見てきた俺としては、いささか複雑な気持ちなのを知ってて言ってるんだろうな。
キララたちの鍛錬を見守っていたミュースの横顔を見ながら、俺はふぅとため息を吐いた。
「でも、ご安心ください。あの子たちにはキチンとキララ様の立場をわたくしが言い聞かせてありますので」
ミュースの
ふむ、俺以上にミュースの方が危なかった……。
「あら―、ミュースちゃんももう立派にキララちゃんのお母さんね。いっそ、養子にする? 貴方も色々とあったし、普通に家庭を持ってお母さんしてた方が楽でしょ。ひとり親だと何かと大変だから、ドーラス君もオマケに付けちゃうけどどう?」
背後から俺たちに声をかけてきたのは、アドリー王とキララの様子を見にきたリーファ王妃だった。
このおばさん、さりげなく毎度、毎度爆弾を放り込んでくれる。
これは、俺をこの土地に縛り付けるための深慮遠謀というやつだろうか。
ミュースは容姿端麗、料理も美味い、家事も完璧、仕事もできる、育児にも熱心な完璧なキララのお母さん候補だが……。
性格と俺との相性は最悪としか言えない気がするぞ。
「な!? リーファ王妃、わたくしは一度、結婚した身ですわ。それにドーラス師に対し、そのような気はありません」
ちょ、その顔を赤くして否定するのって判断に困るんだが。
もしかして、『ちょ、ちょっとくらいは気があるんだからねっ!』っていうデレか。デレなのか……。
そうなると色々と話が……って、違う、違う!
俺はキララを立派に育てるのが先決! だから、ミュースと夫婦になるわけにはいかん。
しっかりしろ! 俺。
「いや、私との結婚はミュース殿も嫌がっておりますし、それにキララは魔王を討伐すれば元の世界に帰る子です。リーファ王妃もそれは理解してもらっていると思いましたが」
「そうだけどねぇ。キララちゃんが魔王を討伐してあっちの世界に帰って幸せなのかなぁって思っただけよ。こっちなら、お父さん、お母さん代わりの人もいて、ご飯もいっぱい食べられて、いい暮らしができると私は思うのよねー」
うっ! このおばさん、痛いところを突いてくるぜ。
こっちで魔王を倒せば、普通なら英雄として扱われ、貴族なみの贅沢な生活が約束されるだろう。
今ですら王族に準ずる扱いを受けて、この国で暮らしているのだ。
本来なら、魔王討伐を果たした勇者は、討伐褒賞とやらで地球での優遇を対価として得る。
ところが、キララはその討伐褒賞で俺と一緒の送還を願えば、元の世界での優遇はない。
そして俺も一五年間も行方不明だったことで、日本では会社に席が残っているか怪しい社会人でしかない。
独身で身寄りのない俺が、日本でキララを養って食わせていく難易度はかなり高いだろうな……。
仮にキララと日本に帰還を選んだときのリスクを考えると、急に俺は背筋が寒くなった。
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