第12話 素質最強の娘

 俺たちが壇上近くに到着すると、キララが一人で中央にいたアドリー王とリーファ王妃の間に立った。


「こちらが、新たに我が国の勇者となるキララ・サトウ殿だ。幼い女性であるが、勇者召喚システムの魔力カウンター数値99999で呼び出された御仁であるので、ここに我が国の勇者として正式に認定を行いたいと思うが、皆の意見はどうであろうか」


 アドリー王が壇上から、儀式の間に詰めかけた国内の有力商人や大地主、そして貴族や大臣たちに呼びかけていた。


 キララは知らない大人たちの視線に怯えた様子を見せたので、リーファ王妃が傍らに立ちキララを元気づけるように手を握ってくれている。


 さすがに俺もこんな大量のおっさんたちの視線を浴びるのはビビるからな。


 キララにへんなトラウマが植え付けられないといいが……。


 国内に広く勇者となったキララを知らしめようと、アドリー王が有力者を呼びまくったことで、こんな事態になっているのだが、本人に悪気がないのは知っているので怒るに怒れないでいた。


 というか、キララの姿を見るとどう見てもアレフティナ王国に新たな王女が誕生したことを祝う式典にしか見えないのだが……。


「ああぁ、キララ様、素敵です。このような重圧の中でも凛々しいお姿を崩されぬ、その精神の強さにわたくしは感服いたします。今日はお祝いに美味しい食事を準備いたしませんと」


 隣で座るミュース神官長が、勇者認定式典で緊張しているキララの姿を眩しそうに見ていた。


 俺も『動画保存ムービングメモリー』での撮影をしつつ、こちらをチラチラ見ているキララに手を振って励ましていた。


 キララ、儀式の間に詰めかけたみんながお前の可愛さに蕩けているぞ。


 パパとして非常に誇らしい! うちの娘は最高か!

 

 儀式の間に詰めかけた者たちは、新たな召喚勇者になったキララに友好的な視線を送っている者が多数派だった。


 おかげで俺の式典の時に比べれば平穏無事に式典が進んでいる。


 俺の時はクソ王がガラの悪い衛兵たちに俺を取り囲ませて、威圧的で一方的な宣告をしてたもんなぁ。


 あの頃は俺もLV1の何も知らない無垢な勇者様だったから、あのクソ王のいいなりになって血反吐を吐く努力をして魔王討伐まで成し遂げちまったしな。


 我ながらお人良しが過ぎたぜ。


 キララの晴れ舞台を見ながら自分の時の苦い経験を思い出していたが、式典も終わりに近づいてきたので、隣にいる危ない人に忠告をすることにした。


「ミュース神官長、今はまだ式典中ですぞ。あまり、キララに見惚れてると大臣たちからのお叱りがきますぞ」


「はっ!? そのようなことはしておりません。きちんと厳粛に式典に臨んでおります!」


「そうでしたか、これは失礼しました。どうやら皆さんもキララのことを勇者として認定することに反対される方はいないようですな。これで、ステータスに問題がなければ育成に時間が掛かっても大臣たちからの突き上げもかわせそうですな」


 ミュース神官長がキララに見惚れている間に、式典の最期を飾るアドリー王による勇者認定の儀が執り行われようとしていた。


 勇者召喚システムの権限者である王が召喚者を勇者として認定すれば、召喚者には勇者としての力が与えられ、ステータスという数値が見られるようになる。


 ちなみに俺の時は召喚した際の魔力カウンター数が三桁だったため、チート能力もなくゴミみたいな扱いだったんだぜ。


 おかげで、あのクソ王には奴隷のような扱いを受け、LV上げに散々苦労した末に魔王を倒した。


 なので、魔力カウンター99999で召喚されたキララは、苦労をしないですむスキルを持っていて欲しいものだ。


 俺が昔の嫌な記憶を思い出していると、アドリー王がキララの額に手を触れていた。


「この者をアレフティナ王国の勇者と認める。これより、勇者キララ・サトウと名乗るがよい!」


 アドリー王より勇者であることを認定されたキララの身体が光に包まれると空中にステータスが表示された。


「……マジか……。これって……」


「キララ様……これは……」


「キララ殿……」


「キララちゃん……」


「これって、どうなの?」


 その時、その場にいた全員が息を呑む音が聞こえた気がした。


 俺の娘は素質最強の勇者だった件……。


 ただ、『人たらし』ってスキルだけが気になるところだ……。

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