第11話 元最強勇者は娘の晴れ舞台にテンション上がってしまい不審者化している

 数日後、短時間の式典なら耐えられる程度にキララの体調も回復して、儀式の間で『勇者認定式典』が開催されることになった。


「それにしても、リーファ王妃も気合を入れ過ぎではありませんかね」


 俺の目の前には王女が被るようなティアラと着飾ったフリフリドレスを着て、長い髪を綺麗に結い上げ、薄っすら化粧をされたキララがいた。


 準備するからとミュース神官長とリーファ王妃に連れて行かれたが、こんな格好で帰ってくるとは……。


 いやぁ、マジうちのキララは天使だったわ……。


 この時のためにこの魔法があったんだな……覚えた時はクソ魔法だと思った『動画保存ムービングメモリー』だけど、いやぁ今はあって良かったぜ!


 『動画保存ムービングメモリー』の魔法によって生成された水晶玉に、映像として保存されていくプリンセスの格好をしたキララの姿を見て、俺は顔が緩むのが止まらなかった。


 こっちの世界の魔法にビデオカメラもどきがあって良かったぜ! くぅう、うちの娘は可愛すぎる!


 ミュースが『ドーラス師はどうかしてる』って言いたそうな顔をしているのがチラリと見えた。


 が、しかし君もキララの動画が欲しいと要求しているだろうが。


 それに娘の一世一代の晴れ舞台でウキウキしない父親はいないだろ。


「パパぁ~わたしなんか違う人になったみたい。これって、お姫様の格好だよね? 昔、絵本で読んだ気がする」


「でも、キララにはとーってもに合ってるとパパは思うぞ。パパから見たらキララは素敵なお姫様だからな」


「ドーラス師の言う通りです。キララ様は選ばれし勇者様であらせられます。それに未成年の女勇者を馬鹿にしている人もいますので、このように威厳溢れる格好をしていただいているのですから。けして、リーファ王妃の趣味というわけじゃありませんよ」


 俺はリーファ王妃からキララの式典用にフリフリドレスを作ると聞いていた。


 だからこれは絶対に王妃の趣味だと知っている。


 けど、某国民的RPGだと、ドレスを着た王女は魔王に攫われる役になるんだが……いいのかこれで……。


 いや、可愛いから良しとしよう。


もし魔王がこの場に現れても、攫われる前に父である俺が魔王を倒せばいいだけの簡単な話だ。


「ミュースさん、わたしおかしくない? こんな姿でみんな笑わないかな? 大丈夫?」


「キララ様、そのお姿はバッチリ似合っておりますので、自信をお持ちください。このミュース、キララ様の神々しいお姿にめまいがしそうですよ。はぁ、わたくし生きてて良かったです」


 俺も大概だと思ってたが、ミュースもプリンセスドレス姿のキララを見て、テンションが高くなっている。


 ちょっとミュースさん、キャラが変わり過ぎじゃね?


 君は確か三〇代の冷徹陰険メガネ女子だったよね?


 なんでキララのドレス姿を見て、呼吸を荒くしてウルウルと目を潤ませているのか説明していただけるとありがたいのだが……。


「んんっ! ミュース神官長、そろそろ式典が始まりますので、儀式の間の壇上に移動しますぞ。貴方も責任者なのですから、そのようなみっともない顔をされては困りますぞ。零れそうな涙を拭いてください」


 見るからに怪しい人となったミュース神官長へ、ポケットから出したハンカチを手渡す。


 ミュースは、俺が撮影すると言ってた『動画保存メモリー』の水晶玉の複製を欲しいと言っていたが、この姿を見て渡していいものか悩む。


 変なことに使わないだろうか……不安過ぎるぞ。


「はっ!? キララ様の神々しいお姿にわたくしとしたことが放心をしておりました。ドーラス師、ご忠告ありがとうございます。このハンカチは後で綺麗にしてお返しいたしますわ。それにしてもキララ様は素敵だわ……本当にあの子が帰ってきたみたい……」


「はい? あの子とは?」


「い、いえっ! わたくしは何も言っておりませんわっ! さぁ、始まりますのでドーラス師もキララ様もよろしくお願いしますよ」


 俺から受け取ったハンカチで零れかけた涙を拭くミュース神官長は、それまで俺が抱いていた陰険メガネ女のイメージとはかけ離れた、別のイメージに取って代わっていた。


 それはとても愛情深い母親っぽいというイメージだ。


 リーファ王妃も言っていたが、陰険メガネ女であるミュースの家事スキルはほぼ完璧だった。


 食事から掃除洗濯キララの世話まで完璧にこなしている。


 システム破損によって自分の職を解任されるかもしれないのに、自分の子でもないキララの看病に大半の時間を割いて情の深い一面を見せているのだ


 そう見ると、ミュースはキララにとって最高の母親代わりになるのではないかとの思いも、頭の片隅によぎっていた。


 ただ、そうなると俺が常時身バレを気にして生活せねばならないので、できればご勘弁願いたい。


「は、はぁハンカチの件はお気になさらずに、それよりも式典後にミュース神官長と今後のキララの件についてお話し合いする時間を設けたいと思っていますが……お時間ありますか?」


「あ、はい。こちらも王よりドーラス師がキララ様の教育役に就任すると聞いておりますので、色々とお話し合いをしておきたいところでした。では、式典終了後に神殿の方で大丈夫ですか?」


 俺の素性を探られるのも嫌だが、母親に捨てられた傷を持つキララにミュース神官長が変な気持ちで悪戯をされるのは絶対に避けたい。


 ミュース神官長がおかしな性癖の持ち主であった場合は悪いが、キララの世話係から外させてもらうようにアドリー王へ談判させてもらうつもりだ。


「承知しました。では、式典後にお伺いします」


「ドーラスさん、ミュースさん、何か始まったよー。王様と王妃様がわたしたちを手招きしてる」


「あっと、呼ばれているようです。さぁ、キララ様、行きましょう。ドーラス師も遅れないように」


 いつの間にか式典が開始されており、王たちが新たな勇者となったキララを手招きして儀式の間に呼ばれていたので、慌てて式典のために作られた壇上へ向かって歩き出した。

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