第10話 王妃の爆弾発言で冷や汗が垂れる
「そ、それは初耳です! そ、それで召喚機能の復旧の目処は……」
「原因を神官たちに探させているが、現状では未定と報告が上がって来ておる。もしかしたら、キララ殿が我が国最後の勇者という可能性もあって、大臣たちも未成年の女勇者であるキララ殿に対し、大いに不満こそ現しているが、送還しろとは強く言ってこないでいる」
だろうな。大臣たちも口ではキララのことを扱き下ろしても、現状では魔王を倒せる唯一の存在であることは理解しているだろうし。
それにしても、召喚機能が復旧未定ならば案外時間はありそうだ。
「召喚勇者はシステムが唯一魔王を討伐できると決めた者ですから……。今はまだこの地の魔王軍は脅威ではないですが、いつ狂暴化するかは誰にも分かりませんからね」
「ああ、大臣たちも心の中では『我が国に召喚勇者は必要ない』とは思っているんだろうが、ドーラス師の言ったことへの懸念があるからのぅ。彼らも神経を尖らせておるようだ」
このアレフティナの魔王軍は、魔王の姿が見えず魔物もかなり弱い。
暴れこそするが、国民の生命や国家の存亡を脅かす脅威とまでなっていなかった。
この国における魔王軍は、畑や街を襲う害獣程度の認識であったのだ。
実際、俺も巡回治療師として半年ほどアレフティナ王国各地を旅したが、ゼペルギアではほどんど見なかった弱い魔物にしか遭遇していない。
「次の勇者召喚が未定となれば、大臣たちもキララの送還を強く言い出せないのも理解できます。彼らも万が一、魔王が出てきた時の対策のため召喚勇者を手放したくはないんでしょう」
要はアレフティナにとって召喚勇者は、対魔王への安全保障要員である。
キララの前の召喚勇者フミヒコも油断から何度か倒されはしたが、俺のように絶望的な強さの魔物たちとの戦いは経験していなかった。
「大臣たちは本当に勝手ね。こちらの都合で呼んだ子に対して、文句ばかりつけて。魔王軍はたいした強さじゃないんだから、あの可愛い子を私に愛でさせるという配慮はできないのかしらね」
このおばさんも旦那に似て子供好きすぎでしょ。
ミュース神官長がチラリとこぼしていたが、リーファ王妃がキララの召喚勇者就任式典用のドレスをせっせとこさえているらしい。
一応、父親としてはフリフリのプリンセスが着るようなドレスを希望いたします……とは言えねぇ……。
でも、リーファ王妃もキララのことを気に入ってくれているようで養育者としては助かる。
「リーファ王妃、キララのことを配慮してくれるのはありがたいですが、大臣たちへの悪口は慎まれた方がよろしいかと思いますよ」
「冗談よ。私も相手を選ぶわ。ドーラス君なら受け流すと思ってるしね」
「リーファの冗談はさておき、キララ殿をどうするか決めねばなるまい……」
アドリー王がリーファの淹れた茶をすすりながら、キララの処遇をどうするかを決めかねていた。
俺としては次の勇者を呼べない現状を利用して、この地でゆっくりとキララを育ててやりたい。
それに魔力カウンター数値99999で召喚された勇者だから、ものすごい素質を持った勇者かもしれないのだ。
いや、もうすでに笑顔は天使級に超絶カワイイ子だから最強勇者決定なんだがっ! それとは別にこっちで穏やかな生活をさせて絶対に幸せにしてやるつもりだった。
俺はキララの笑顔を思い出すと、自分の頬が自然に緩むのを感じていた。
「あらー、いつも眉間に皺が寄ってたドーラス君の顔が緩んでるわね。キララちゃんのことを考えてたのかしら?」
顔が緩んでいることをリーファに指摘された俺は、慌てて表情を引き締める。
「んんっ! リーファ王妃、そのようなことありませんぞ。アドリー王、キララの件は勇者認定でその素質を見極めてから改めて決めるというのはどうでしょうか? キララが素晴らしい素質の勇者であれば、大臣たちも納得するでしょう。素質さえあれば後は教育係を付けて成長を待ち、魔王に備えるという手段も行えます。僭越ながらキララの勇者としての教育係は養育者の私が勤めさせていただく所存ですぞ」
「なるほど! そのような手があったか。それならば大臣たちも納得するであろうし、幼いキララ殿には時間が与えられる。それに膨大な魔力を持つ、ドーラス師が勇者の教育係として就任してくれるなら、さぞ立派な勇者に育つであろうな。リーファもそう思わぬか?」
「ドーラス君が教育係ねー。なら、お世話係に立候補したミュースちゃんはマナーや生活全般の教育係にしちゃいましょう。キララちゃんも男親だけじゃなく女親も必要だしねー。それできっと大いにキララちゃんも喜ぶだろうし。絶対にそれがいいわね」
お、おい。おばさんよ。
その話はどうも陰険メガネ女をキララの母親代わりに――って話にきこえるんですけど!?
ただでさえ俺のことを怪しんで素性を探ろうとしている感じなのに、キララの母親代わりとして生活を共にしたら、もっと俺のことを怪しんでくるから!
俺は動揺が顔に出ているのを感じながらリーファ王妃に対し、ミュースを教育係にしないように申し出た。
「リーファ王妃、ミュース神官長はお忙しい方のはず。マナーや生活全般の教育係などはメイドを雇えばいいだけの話ですし……」
「あらー。ミュースちゃんはメイドとしてのスキルは完璧よ。我が国一と言ってもいいわね。それに今回の勇者召喚でシステムを故障させた責任を追及されちゃってるのよね。大臣たちからは職責を解いて牢獄送りにしろとも言われてるし」
は!? キララの面倒を見ているとき、ミュース神官長はそんなこと一言も言ってなかったぞ。
今回のシステムの故障は、ミュース神官長に全く責任はないだろう。
責任があるとしたら膨大な魔力を叩き込んだ俺が追及を受けるはずだ。
「そのような話は聞いておりませんが!?」
「リーファよ。ミュースからドーラス師に黙っておくようにと言われたであろうが。それを漏らすとは……。口が軽いにもほどがあるぞ」
「あらー、ごめんなさい。ミュースちゃんは言って欲しそうな顔してたから言っちゃった。てへっ、でも二人が並んでキララちゃんのお世話してるのを想像するとお似合いとしか言えないのよねー」
リーファの言葉にキララとミュースと俺で食卓を囲む姿を想像していた。
……おぅ、キララが笑ってるな……まぁ、悪くない……って! 違う、あの陰険メガネがキララの母親代わりとかないからっ!
それに、このおばさんには俺の秘密は絶対にバラしたらマズいな。
話したら最後、翌日には国中に俺が魔王を倒したことのある召喚勇者だって知れ渡るだろう。
それにしても、ミュース神官長も色々と大変な状況だったんだな。
キララの世話をしているよりも、自分の責任追及の火消しをした方がいいだろうに。
あの陰険メガネ女は何を考えてやがるっ!
「ええっと……ミュース殿のキララの教育係就任の件は一旦置いておくとして……。ミュース神官長殿の責任問題もきっとキララの素質が抜きん出たものであれば、すぐに声を潜めるはずです。なのでアドリー王にはキララの体調が戻り次第、勇者認定式を行って頂けますよう進言いたします」
このままだとリーファ王妃の圧力で、ミュースの教育係就任が決まりそうだった。
それは、身分を隠してこの国に仕えている俺にとって死活問題になりかねない。
なので、話を逸らすためキララの勇者認定式典の方へ引き戻すことにした。
ここでミュース神官長に恩を売っておけば、俺の素性を詮索することを諦めさせることもできるはずだ。
「ドーラス師がそう申すなら、キララ殿の体調が戻り次第、式典を行えるよう準備は進めておこう」
「あらー、じゃあキララちゃんのドレスも無駄にならなそうね。フリフリのドレスが似合うと思って、今急いで針子の子たちを呼んで、可愛いドレスを仕立てているから期待しててね、ドーラス君」
むむっ! さすがリーファ王妃。キララの天使級の可愛さを理解しておられるとは……。
いいぞ! もっとやれ!
絶対にうちのキララは、プリンセスドレスが絶対に似合うはずだ。
「リーファ、キララ殿は孤児院の子たちとは違うのだぞ。敬意をもって接しなければならんのだ。だが、キララ殿の可愛いドレス姿を見るのはやぶさかでないぞ」
何だかんだでこの二人は子供好きが度を越している気がする。
とはいえ、国のトップが召喚勇者のキララを好いていなければ、俺の時みたいな悲劇が起こるからな。
日本で酷い目にあったキララには、王と王妃の二人がじーちゃん、ばーちゃんに代わりになって欲しいところでもある。
「キララは元の世界でかなり心に傷を負っておりますから、リーファ王妃やアドリー王の好意は素直に喜ぶと思いますよ、それに私もキララのドレス姿を見てみたいですからな」
「そ、そうか! ならば急いでドレスの準備は進めておくぞ!」
その『マジで喜んでもらえるの?』的な顔をするアドリー王の子供好きも相当なものだな……。
俺はリーファに出されたお茶を飲み終えると、消化に良さそうな菓子を見繕いキララの土産として持ち帰ることにした。
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