第37話:閃言(せんげん)
「それでは、始め」
中間考査の試験一日目にして最終日が始まった。
試験期間前の息抜きという位置づけにあった、
ただ、
でも試験期間に入ったことで、恋は一時保留ということにしている。
この試験が終われば年内の二学期前半は締め。
年始からは二学期後半が始まる。
「それまで。みなさん筆記やめ。一番後ろの人は前へ順に答案用紙を回収して持ってきてください」
長丁場の試験が終わる。
あたしは彼氏ができても勉強の手を抜かない。
おおっぴらに会えるわけでもないから、仕方ないことではある。
「よう、
「お前か。さすがに試験が終わったらけど、彼女は遠慮がちか?」
帰り道に幼馴染と遭遇した。
「まぁナ。積極的に会おうとしないだけで、偶然会えば一緒にいるサ」
「それはそうと
「わかってるヨ。予定数を遥かに上回る結果を出しやがっテ。てめえの本気を見せてもらっタ」
そのおかげで試験が終わり、二学期前半の終業式後にある生徒会主催のクリパで恋人の存在を明らかにする計画が実行に移せるメドが立った。
「とはいえ、しばらく混乱は避けられねえゾ?」
「そのためにお前の力を借りたいんだ」
「彼女の方は覚悟できてるのカ?」
「年内に動くことを教えてはいないが、それなりに混乱があることは分かっている」
「分かったヨ。彼女との時間もあるからどこまでフォローできるかは保証できねえが、できる範囲で協力させてもらうゼ」
「頼む」
「そういえば
「…うん…」
二人での帰り道、ゆっくりと歩を進める。
「…ところで…優愛ちゃんは…どうするの…?」
「今のところ脈なしみたいだし、じっくり行くことにするわ。焦って行動してもコケそう」
「…それじゃ…初詣だけど…先輩含めて…三人で行くってのは…?」
いつまで続くかも不明な彼氏との予定は年末年始も決まっていない。
「先輩が乗り気なら、それもよさそうね」
「…なら…あたしから…誘ってみる…」
「いいの?」
「…うん…」
「いつの間にか立場が逆転しちゃってるわね。これまで明梨を守るために強気でいたけど、明梨がこんなに頼もしく思える日が来るなんて思わなかった」
優愛ちゃんはニコリと笑って、遠い目をする。
「…仕方ないよ…あたしだって…しっかり告白するとき…怖かったもん…」
「おまけに相手は高等部の人気者だしね。それにしても驚いたわよ。まさか好きになった相手があの人だなんて。おまけにうまくいっちゃうし」
「…あまり…会えてないけど…」
「何してるの?明梨」
あたしはスマートフォンを操作している。
「…誘ってるの…」
「もう?」
「…OKの…スタンプが…来たよ…」
「早っ!」
続けて、優愛ちゃんには内緒で追加のメッセージを送った。
「…初詣は…元日の9時に…ショッピングモール前に集合で…」
「後でメッセしてね」
「…うん…」
「それじゃテストの答案を返すぞ」
『うへぇ』という声が教室に響き渡る。
二学期の終わりではないので、通知表の代わりに中間考査の答案用紙が返ってくる。
「では次に鐘ヶ江さん」
「…はい…」
答案用紙を手にした先生が渋い顔をしている。
「君は今回、何があったんだ…?」
神妙な顔をして言葉に詰まる。
まさか…手応えはあったけど、もしかしてやらかしちゃった?
ありがちな、解答欄を一つずつズレて答えてしまった?
「おめでとう!満点!」
ドッと教室中が湧き上がった。
「マジか!」
「すげぇ!」
次々に称賛の声が上がる。
さっきの溜めは何だったの…?まるで某クイズ番組みたい。
「これは幸先のいい展開だ」
盛り上がる周囲を気にもせず、静かな決意を胸に秘める白須賀。
「そして白須賀さん」
「はい」
「ずいぶん頑張ったようだな。期末もこの調子で行けば進級は問題ないだろう」
白須賀さんは、あたしが試験勉強に付き合ったこともあって、大きく底上げに成功したみたい。
通知表代わりの答案用紙を配り終わり、名残としての終業式っぽいことが行われる。
学期末ではないため、10分程度でサクサクと終わった。
『それでは最後に生徒会からお知らせがあります』
集合した体育館が、にわかにザワっと湧き上がる。
『毎度恒例となりましたが、本日この後に生徒会主催のクリスマスパーティーが執り行われます。清涼飲料や軽食が出る他にビンゴ大会や舞台を使った企画が予定されています。生徒は無料かつ任意参加ですが、お誘い合わせの上で奮ってご参加ください。12時から開始して18時が終了予定です』
あたしはこれまで、こういった催しには参加しないでいた。
けど今回は白須賀さんから必ず参加するように、と約束させられた。
何を考えているのかわからないけど、彼の言う事とやる事には必ず意味がある。
そう思える。
参加無料ということで、かなりの人数が参加している。
さすがに全員が出ていると文字どおり足の踏み場もない状態になるのは確実だけど、適度に不参加がいるのか、混みすぎず閑散としすぎずのバランスが取れている。
「…こんにちは…鐘ヶ江…です…」
「知ってるよ。元・沈黙姫でしょ?」
「…そう呼ばれたことも…ありました…」
クラスでも少しずつ友達ができ始めたあたしは、他のクラスにいる人達と交流を図って、不慣れながらも話しかけてみることにした。
勇気を出して話しかけてみると、あたしが思っていたほど怖さはない。
「どうだった?明梨」
数分程度お話をしてから離れたところで、ホッとできる人が来た。
「…優愛ちゃん…うん…まだ慣れないけど…普通に話せた…」
「結局あの件はまだ動きがないね。来年まで持ち越しかな?」
あの件とは、あたしが白須賀さんと付き合ってることを周囲に教えるという話。
「…いずれは知られちゃうけど…少しホッとしてる…」
けどそれまでは会うにしても人目を避けて、こっそりと秘密の関係は続く。
『こちら主催の生徒会です。みなさんご歓談のようですが、これからビンゴ大会を開始します。舞台にご注目ください!』
ざわつきは静寂に変わり、視線が舞台に集まる。
『まずは先着11~30名の賞品は大手通販サイトのLight Futureギフト券二千円分!』
おおおっ、と盛り上がりを見せる。
Light Futureは明先グループが運営する通販で、今や海外進出も目覚ましい。
舞台のスクリーンに映し出される賞品の写真が切り替わる。
『続いて5~10名の賞品です。同じく大手通販サイトのLight Futureギフト券五千円分!』
まじか!と声が上がっている。
『先着4名目は運輸省のナンバープレート取得済み電動キックボード!先着3名目は高性能タブレットキーボード付き!先着2名目は電動自転車!』
価格はギフト券よりはるかに高額ながらも、必要性を感じない人もいるのか、盛り上がりはムラがある。
『そして先着一名は…最新型Play Studio Xです!』
おおおおっ、と興味を惹かれた人たちが異様な盛り上がりの声を出す。
確か人気すぎて、入荷待ちでも半年先まで予約でいっぱいのはず。
『いずれの賞品はすでに確保していますので、その場でお持ち帰りいただけます!発送を希望することもできます!みなさんビンゴ用紙の準備はできましたか!?』
ざわつきはすっかり静まり返り、妙な緊張感が漂い始める。
結局あたしはギフト券二千円分を手にする。ギリギリ最後の一枠だった。
「明梨、早く上がれたね」
「…優愛ちゃんは…惜しかったよね…」
四位の発生が多数だったため、決定戦のじゃんけんで負けてしまい、五千円分のギフト券になった。
「まあ電動キックボードは興味あったけど、多分すぐ飽きるから丁度良かったかも」
「…それにしても…」
ビンゴの数字発表において、五回目で驚異の最短上がりをやってのけたのは…。
「まさか白須賀くんが単独トップ上がりとはね」
その本人は持ち帰りではなく自宅発送を希望した。
「瞬、賞品を持ち帰りにしなかったのカ?」
ビンゴ大会が終わって熱気が引き始めた頃、白須賀に絡む
「今日は別のお持ち帰りがあるから手一杯だ。両手が空いててもまだ足りないくらいのな」
司東はハッとなって、不敵な笑みを浮かべる。
「なるほどナ。この後にぶちかます気カ」
「始める前にDirectでお前に直接メッセージしておく。助力を期待してるぜ」
「わかってるサ。彼女にもできる範囲で手伝ってもらうつもりダ」
「頼んだぞ」
生徒会関係者以外、立ち入り禁止の舞台を一時的に開放しての催しが始まる。
『それでは壇上に立って何かを伝えたい生徒は前へどうぞ!持ち時間はそれぞれ最大10分です!』
この合図で、舞台に立つ人は様々な趣向で会場を沸かせる。
軽音部が出てきては楽器の設置を生徒会員が手伝って一分程度で設置を終えてライブを始めたり、好きな異性に対する告白をしたり、犯人が不明なガラス破損を自白したことを叫んでは先生が事実確認のため乱入したりと、
「瞬のやつ、舞台に立つつもりカ?」
司東はスマートフォンを手に通知を確認するが、まだ何もない。
「その友達は何をやるつもりなの?」
「まあ見てなっテ。すぐにわかるサ」
軽食を楽しみつつ、動く時を待っている人もいる。
窓の外を見ると、空が朱色に染まり始めていた。
「明梨」
「…何…?」
「白須賀くんが必ず参加するよう言ったんでしょ?」
「…うん…」
「その本人とは話ができたの?」
見ると、女子が集まっているところを探せばすぐに見つかる。
けれどもほとんど話などできていない。
「全く、誘った自分が放置するなんてどうかしてるわよ」
「…こうなるだろうなって…わかってたから…」
少し話をして、優愛ちゃんは飲み物を取りに行く。
白須賀はお手洗いから戻る途中で足を止める。
ポケットからスマートフォンを取り出して、司東にメッセージを送った。
『これから始める。明梨はどのへんにいるかわかるか?』
通知に気づいた司東は、彼女と一緒に明梨の姿を探す。
『今、中央から少し舞台寄りのところにいる。足止めしておこうか?』
『そうだな、頼む』
優愛ちゃんと離れて、会場の中央から出口方面に通りかかる。
「よう、元・沈黙姫。楽しんでるカ?」
「…司東くん…うん…」
話しかけられたのはほぼ中央のところ。
♪
ふとDirectのグループメッセージ着信通知が鳴った。
あたしはその通知を見る。
えっ!?
左手でその通知内容を見たあたしは、ギョッとして青ざめる。
きゅ
右手に誰かの手が触れる。
いや、触れるだけではない。
指と指の間に指が入り、そのまま握られる。
その手は、あたしの彼氏だった。
指の間に指が入り込む手つなぎは、慣れてないこともあってやけに異性としての意識が高まってしまう。
「…ちょっと…いいの…こんな大勢がいるのに…?」
「すべて予定どおりだ。司東、助かった」
さらりと言い放つ彼。
「えええええっ!?」
「嘘でしょ!?」
「前から怪しいとは思ってたけど、まさかそんな!」
通知に気づいた会場にいる人たちが次々に画面に目を落として、主に女子が悲鳴に近い声を上げていた。
「瞬、ついにやったナ」
「ああ」
グーに握りしめた拳を振り上げて、白須賀は空いてる手でその拳同士をゴンとぶつけて祝いの意をかわす。
「そう、前から準備してたのはこういうことだったのね」
司東の彼女もこの通知に気づいた。
一気に視線が集まり、会場は騒然とし始める。
「ちょっと白須賀くん!もしかして前から企んでいたことってこれ!?」
「そうだ。十分にDirectのグループメッセージ参加メンバーを集める必要があった。特に女子のメンバーをね」
優愛ちゃんが駆け寄ってきて、通知が来た画面をあたしたちに向ける。
それはあたしが見た通知のメッセージと同じ内容だった。
『クリスマスイブの今日はみなさんに報告したいことがあります。俺には文化祭のすぐ後、本気で付き合い始めた彼女がいます。お相手は
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