第91話
「うっわ。俺、何言っちゃってんのおおおおおおおおお!」
雪平家からようやく解放された俺は、旅館にあるちょっとした休憩スペースで壁に頭を打ち付けていた。
夢であってくれ夢であってくれ夢であってくれ夢であってくれ……どれだけそう思ったことやら。
いくら頬をつねったり、壁に額を打ち付けても、目覚めることはなく、痛みだけが虚しくも現実であることを知らせてくる。
「何が『別れませんよ。僕と琴音は……絶対に』だよ! そもそも付き合ってねーじゃんかよ!」
雪平の窮地をどうにか救い出そうとして咄嗟についた嘘が仇となってしまった。
「今後どうしていこうか……」
もはやこのまま嘘を突き通す他にない。
が、それをしてしまえば、将来的にはゴールイン……?
「いやいやいや、それはまぁ……ありかもしれんが、ダメだダメ!」
別に雪平は可愛いと思うが、恋愛対象であるかと問われると、微妙なラインだ。
だいたいあいつ、俺のこと絶対に嫌っているしな。
「そこで何壁に向かってぶつぶつ言ってるの? 気持ち悪い」
と、噂をすればその“張本人”がやってきた。
俺は驚くこともせず、ゆっくりと声がした方向に顔を向ける。
「……んだよ。バカにしに来たのか?」
せっかく助けてやろうとした相手に向かって、こいつはまた……。
俺は近くにあったソファーによたよたと近寄ると、全身の力が一気に抜けたかのようにソファーへとヘタリ座る。
「違うわよ。その……」
雪平は心外と言わんばかりに眉間にシワを寄せたかと思いきや、急に顔をほんのりと赤くしだす。
「さっきは……ありがとう」
「ん? ああ、おかげさまで厄介なことに巻き込まれてしまったが、まぁいいよ。俺がやろうと思ってやったことだからさ。それより……お前、お父さんに向かってなんて言ったんだ?」
「なんてって、それはもういいでしょ?」
「いいわけないだろ。今後の裏合わせのためにも教えろ」
俺がそう言うと、雪平は両手をもじもじとしだす。
「どうしても言わなきゃ、ダメ、かしら?」
雪平の照れた仕草に思わず、胸が高鳴ってしまう。
「あ、当たり前だ」
俺は必死に平静を装うとするも、顔を直視できねぇ!
なんか俺まで照れ臭くなってしまったじゃねーか!
「わかったわ。じゃあ、ここだと誰が見ているかわからないし、ひとまず外を歩かない?」
「お、おう……」
俺は雪平に言われるがまま、外へと出ることにした。
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