第89話 突然の来訪者
外の様子もすっかり夕焼けに染まった頃。
夕食を済ませた俺は部屋でのんびりと勉強をしていた。
やはりこれまでの癖なのだろうか……。せっかくゆっくりできるというのに何もすることが見つからず、結果的に勉強へと逃げてしまう。
ま、まぁ別に勉強をしたところで悪いというわけではないし、むしろメリットの方が高い。ぐーたらと怠惰な時間を過ごすよりかはよっぽどマシだと言えるだろう。
一方で我が妹である桜はというと、入浴中である。
午前中あれだけ入ったのにまた温泉……。別に本人がそうしたいならそれでいいとは思うけど、入りすぎるのもどうかと思う。
――とは言っても、俺も桜が帰ってきたタイミングで風呂に入ろうかと思っているんだけどな。
何はともあれ、ちゃぶ台の上に問題集を広げて、向かい合っているわけなんだが……
「って、誰だ?」
ふと、部屋の扉を叩かれたような気がした。
旅館のスタッフであれば、外から声をかけられるのだが、その様子は見受けられない。
――気のせいか?
勉強に集中しすぎて、聴覚が敏感になっていたのかもしれない。
そう思うことにして、再び問題集に戻ろうかと思ったのだが……
トントントンッ!
今のはさすがにはっきりと聞こえた。
旅館のスタッフ以外で俺たちが宿泊している部屋へ訪ねてくる相手……もはや考えるまでもなく二択。
どちらにせよ、今は顔を合わせたくない奴らではあるが……このままシカトしてしつこくされても勉強とかで困る。
俺は深いため息を吐きながら、出入り口の方まで行き、戸を開ける。
「一体なんの用事――」
俺は目の前の人物に言葉を失ってしまった。
「こんばんは。こんな遅くにすまないね。君が工藤和樹くんだね?」
渋い声で俺の名前を呼んだ中年のおじさん。
見た目はダンディーな感じでおじさんなのに若者である俺ですらかっこいいと思ってしまうほどの人物。浴衣を着用しているところを見ると、この旅館の宿泊客で間違いないとは思うけど、それにしたって……
「あ、あの……どちら様でしょうか? もしかして、どこかで……?」
まったくもって顔を合わせた記憶がない。
もしかして親父の知り合い……と、疑ってはみたものの、こんなダンディーなおじさんいたか?
ますますわからなくなってきたところで目の前のダンディーなおじさんは愉快そうな高笑いを見せる。
「これは失礼。私としたことが先に名乗らないとは紳士の風上にも置けないな」
そう言うと、ダンディーなおじさんはううんと咳払いをして、先ほどまでの表情とは一転して、気迫あるような引き締まった顔を見せる。
「私は雪平泰三。雪平琴音の父親だ」
…………………………………………………………………………………………………え?
【あとがき】
間違って別の作品で公開するところだった……(いや、しちゃってたけど)
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