第87話

 ゲームコーナーから部屋へと戻る頃にはクタクタになっていた。

 あの後、太鼓の◯人を両替した百円玉がなくなるまでさせられた上にクレーンゲームもやらされ、俺も財布もげっそりとしている。

 なんとか解放され、宿泊している部屋へと戻ると、すでに桜は帰ってきていた。

 まぁ一時間半もすれば当たり前っちゃ当たり前なんだが、それはともかくとしてちゃぶ台の前へへたり座る。

 桜は見ていたテレビを一旦消し、ちゃぶ台に顔を埋めている俺を覗き込む。


「どうしたのお兄ちゃん?」

「んあ? ああ……いろいろとあってな」


 俺は顔を上げ、桜の方に視線を向ける。

 砂蒸し温泉に入ったおかげか、心なしか肌がつやつやになっているように見えた。

 それはともかくとして、まさかスーちゃんも来ていたなんて……はぁ。

 思わずため息が漏れてしまうが、これは仕方がないこと。俺みたいな人生を送れば、誰だってこうなってしまう。

 ––––このことは桜に黙っておくか……。

 変に喋っていがみ合われても困るしな。

 そう結論がついたところで俺はスッと立ち上がる。


「勉強する」

「……え?」


 桜は若干引いたような顔をしながら、どのくらいか俺を見つめる。


「いやいや、せっかくの旅行なのに勉強はおかしいでしょ!?」

「いいじゃん。勉強している方が落ち着くし」

「落ち着くって……もう勉強症候群だよ! 依存症だよ!」


 桜はそう言って、俺の腕を掴んでくる。

 が、俺はその手を振り解こうともがく。

 室内がドッタンバッタン大騒ぎになっていた。

 そんな状況であれば、必然的に旅館スタッフも黙っているはずはなく……


「し、失礼します。あの……お客様、外にまで漏れていますのでもう少しお静かに……」


 揉み合っている最中、旅館スタッフが室内へと入ってきた。


「「すみません……」」


 俺たちはその場でシュンとなると、すぐに頭を下げる。

 そうだ。ここは旅館。自宅じゃない。

 すっかり居心地の良さに頭がどうかしていた。

 やがて旅館スタッフが出て行ったところを見届けると、俺たちは互いの顔を見合わせる。

 時間はまだ午後三時過ぎ。夕食まで三時間ほどある。


「どこか……外にでも出るか?」


 俺がそう提案すると、桜は小さくコクリと頷いた。

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