第81話 手紙

 八月に入り、外の日中気温はさらに上昇した。

 連日のように灼熱の太陽がアスファルトの地面をジリジリと焼き、家から一歩出ただけでサウナのような熱風が襲いかかってくる。

 朝や昼、夕方のニュースでは熱中症や日射病関連を主に取り上げ、天気予報ではこの一帯の予想気温が過去最高を記録するなど、異常気象だ。

 これもすべて温暖化が原因だとすると、そろそろ地球も危ないかもしれない。各国二酸化炭素の排出量を減らそうという取り組みをしたり、具体的な政策はやっているものの、温暖化を止めることはできるのだろうか? 正直、そのニュースを見るたびに疑問に思ったりすることも少なくはない。

 とにもかくにもそんなクソ暑い中、俺は自宅に引きこもりながらクーラーで涼んでいる。

 こんな猛暑日は家で涼みながら勉強。これに限る。

 ふと机の近くに置いてあったスマホで時間を確認して見ると、もうすぐで午後十二時。集中していた分、時間の経過もかなり早く感じてしまう。

 とりあえず、ちょうどキリがよかったため、シャーペンをノートの上に置くと、俺はググーっと背伸びをする。

 長時間座っていると、やはり腰に負担がかかるものなのだが、ここでちょっとした豆知識的なことを教えてやろう。

 ねぇねぇ知ってる? 人間って長時間座っていると、寿命が幾分か縮むんだって〜。

 豆柴風に言ってみたが、これに関しては俺もびっくり仰天だった。まさか座っているだけで寿命が縮むなんて……そう考えたら、学校は俺たちの精神に飽き足らず、命までも徐々に削っているという恐ろしい場所となる。そんなバカな話あるかと思い、詳しく調べて見ると、オーストラリアのある研究機関の調査では、人間は一時間座り続けると、寿命が二十二分も短くなってしまうんだとか……。まぁ座っている姿勢にもよるが、一時間に二十二分と考えると、学校での寿命消費量は相当なものになるんじゃないか? だって、小学校一年生から授業を受けるたびに席へ座っているから今が高校二年……約十年間に俺のライフはどれだけ削れてしまったのだろうか……。今後も大学へ進学することを考えると……俺はさらにライフを削られるというわけになるし、会社に就職し、デスクワークなどを考慮すると、日本人の寿命の長さは以上だと個人的には思う。なにせ、日本人の平均寿命は世界一位だからな。他の国よりも勤勉なのに長寿国……基礎寿命は一体どれくらいなんだ? 百五十とかか? バケモンじゃねーか。

 俺は椅子から立ち上がると、自室を出て、リビングの方へと向かう。


「あ、お兄ちゃん」


 と、ソファーに座っていた桜が何やら封筒を差し向けてきた。


「なんだこれ?」

「お父さんとお母さんからなんだけど……」


 俺はひとまず受け取り、手で封を開けていく。

 そして、中身を取り出すと……手紙と旅行券らしきものが添えられていた。


 “オッス! オラ、パパ!

  会社内での飲み会で当たったから桜と一緒に楽しんでくれ! ほんじゃあな!“


 おい親父! 説明ちょっと雑すぎだろ!

 とはいえ、旅行券らしきものをよくよく見ると、どこかの温泉旅館のものらしく、ちゃんと二名分ある。ついでに一泊二日。


「お兄ちゃん! 今日からでも行こっ!」


 手紙を一緒に読んだ桜は鼻息を荒くしながら、キラキラとした目で俺を見つめてくる。

 特段、何か用事があるというわけでもないし、ぼっちな俺からしてみれば、毎日が暇。時間を持て余していると言っても過言ではない。

 桜とも夏休みの間にどこか出かけようかという話もこの前したばかりだし……いい機会だろう。


「……じゃあ、行くか。でも、出発は明日だぞ? 今日の急にはできん。宿にも連絡しなくちゃいけないし」

「うん、わかった! 桜さっそく準備してくるね!」


 そう言うなり、桜は駆け足でリビングから出て行ってしまった。

 ――なんか、嫌な予感がする……。

 直感ではあるが……これに関してはいつものことだ。桜と一緒にいるといつも感じてしまう。それでもってなぜかこの予感は高確率で当たってしまう。

 俺は深いため息を一回吐くと、ソファーに深く沈み込んだ。

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