第80話 あれ? 桜の様子が……

 午後三時半過ぎ。

 学校で解散した後、俺は痛む左頬を片手で押さえながら、帰路を歩いていた。

 今思い出しただけでもやっぱりひどすぎる……。

 というのも、車内で寝ている時、段差などでの反動でか、雪平の肩に頭を乗せてしまったらしいのだが、たったそれだけのことで思いっきり顔面を殴る必要はあっただろうか? 押し返すとかでもよかったような気がするんだが……。

 そんな不満を抱きつつ、自宅へと辿り着いた。

 俺はポケットの中にある鍵を取り出すと、玄関ドアを開け、中へと入る。


「ただいま〜」


 すると、リビングの方からまるでご主人様の帰りを待っていた犬と言わんばかりに桜が嬉々極まりない表情で飛び出してきた。


「お帰りなさい! お兄ちゃ〜ん♡」

「ちょっ?! 桜……」


 桜は俺に抱きつくと、胸元で頬をすりすりとしだし、ついでにくんかくんかもしている。

 なんとかやめさせたい気持ちはあるが、がっちりとホールドされ、疲れた体には到底逃れられない。

 どのくらいかして、桜は抱きついたまま、顔を上げる。


「ねぇお兄ちゃん」

「ん?」

「お土産、買ってきた?」

「……ごめん。忘れてた」


 そうだった。出発前にお土産を買ってくるみたいな話をしていたんだった。

 ――怒っているだろうか……。

 と、一瞬思ったが、桜の表情を見る限りでは、別に怒っている感じはまったくしない。むしろ優しく微笑んでいる。


「そっか。なら、仕方ないね」


 桜はようやく俺を解放すると、手荷物をさらう。


「お兄ちゃん合宿で疲れたでしょ? 今日はもうゆっくりしていてよ」


 そう言うなり、桜は洗濯を始めるために洗面所の方へと向かっていく。

 ――桜って……こんな子だったか?

 二日間見ないうちにだいぶ変わったような気がする。

 ――俺がいない間に何かあったのか?

 よくわからないが、俺はとりあえずリビングのソファーでゆっくりとくつろぐことにした。

 三日間の合宿……もう正直二度と行きたくない! そう思うこの頃だ。

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