第77話 合宿二日目②
合宿最終日の夜。
俺と雪平は部屋でコンビニ弁当をつついていた。
何が悲しくてこいつと一緒に晩飯を食わなきゃならないんだと思っているのだが、まぁ昨日も一緒だったし、ここは我慢だ。
それにしても雪平は黙っていれば普通に美少女なんだよなぁ。
風呂に入ったばかりということもあってか、しっとり髪が濡れており、特にうなじ辺りがめちゃくちゃ色っぽいというか……変な視線で見てしまう。
思春期真っ盛りの男子高校生である俺には、いくら相手が雪平とはいえ目に毒すぎる。
クッソ。ぺったんこなくせに。というか、本当は「ゆきひら」じゃなくて「ゆきだいら」じゃないのか?
「和樹くん」
「ん?」
「なぜか今、あなたのことが殺したいくらいに無性にイラッときたんだけど?」
「それを俺に言われても非常に困るんだが?」
イラッとした。じゃあ、俺はどうしろと言うんだよ。この部屋から出ていけか? ふざけんな。
俺たちの間には会話らしいことはほとんどなく、ただテーブルの上に置かれた弁当をそれぞれが食べ進めるだけ。
女子と同じ部屋であれば、もっといろいろなことを想像したり、あるいは楽しいと思えるのかもしれないが、現実はそう上手くできていない。昨日といい、ラブコメの神様は一体何をしてんだよ……。ただ状況を作り出しただけで、その他はほったらかしじゃねーか。
って、俺がまるで雪平とラブコメしたいみたいな感じになってないか? いや、断じて思ってないからな? こんな妖怪ぬりかべみたいなやつとイチャコラなんて……ははは。絶対にありえねぇ。
そんなこんなで弁当を食べ終えた俺は、ゴミをビニール袋の中へと入れ、部屋に備え付けれれているゴミ箱の中へと入れる。
そして、そのままベッドに上がり込むと、参考書を手に楽な体勢を取る。
「和樹くん、歯磨きしないの?」
と、まだ弁当を食べている雪平がそう訊ねてきた。
俺は参考書に目を落としながら、口だけを動かす。
「もしかしてだが、雪平は食後の後、すぐに歯磨きをしているのか?」
「もちろんよ。じゃないと、口が気持ち悪いじゃない」
「そうか。じゃあ、雪平にいいことを教えてやる」
「……何かしら?」
「食後、すぐに歯磨きをしてしまうと、歯の表面にあるエナメル質が失われてしまうらしいぞ? それがなくなってしまえば、歯が腐食してしまうらしいから、最低でも三十分後が理想らしい」
「……それ本当なの?」
雪平の声音が若干不安になっているのがわかった。
顔は見ていないからなんとも言えないが、おそらく焦った表情でもしているのだろう。
「ああ、ググればすぐにわかると思うが?」
そう言った瞬間、雪平が席を立ち、ベッドの上に置かれていた自分のスマホを手に取る。
「……本当、だわ……」
「だろ? だから、どれだけ気持ち悪くても三十分間は我慢しろ。でないと、老年層を迎える頃にははもげになってるぞ」
はもげとは、九州地方の方言である歯のない人のことを指す。両親がそれぞれ九州出身だったから小さい頃から何かと九州方面の方言が出やすい。
「……気をつけるわ」
おそらく“はもげ”という意味が伝わっていないかもしれないが、雪平は席に戻ると、改めて弁当を食べ始めた。
学校一の美少女と同室で一晩……。俺と雪平の場合はまぁ、こんなもんだ。
まったく……青春の欠片も何もねぇ!
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