第76話 自分のやり方
午後十時過ぎ。
私はあらゆる家事を済ませたことを確認し終えたところで二階にある自室へと向かった。
ドアを数回ほどノックすると、中から声が返ってくる。
私はそれを合図にドアをゆっくりと開け、中へと入った。
「来ると思ってずっと待ってた」
スズちゃんはパジャマを着た状態でベッドの淵に腰を下ろしていた。
私も少し間を空けて、隣へと座り込む。
「じゃあ、もう私がなんのことで訪ねてきたかわかるよね?」
「……うん、決まったんでしょ? 自分がどうしたいか」
私は一回小さく深呼吸をしてから息を整える。
「スズちゃん。私ね、いろいろと考えたんだ。将来、どっちの方が自分にとって最善な選択なのかって。お兄ちゃんと一緒にいられるのなら、同盟でもなんでもしてやるって一度は考えたんだけど、やっぱり……」
「同盟は組まない?」
私は静かに頷いて見せた。
「今後、強大なライバルが出現した時のことを考えると、本当はここで同盟を組んだ方がいいのかもしれない。そうすれば、私たち以外の女子を追い払うことでハーレムは出来上がり、永遠の愛を手に入れることができるかもしれないから……。でもね、スズちゃん。それって他の人から見ればズルしているように見えると思うんだよね」
「……ズル?」
スズちゃんはきょとんと小首を傾げる。
「そう。結局は対等な勝負が行われないまま、お兄ちゃんのことを好きだった人たちは思うように想いを告げられずに失恋してしまう……それって可哀想だと思わない? 同盟って、私たち以外を排除する目的で結ぶものでしょ? そんなの……卑怯だよ……」
私は顔を下に向けます。
スズちゃんはここまで考えていたのかどうかはわかりません。
なんて次の言葉をかければ……私はスズちゃんの顔を見るのが怖くて堪りませんでした。
「……さーちゃんならそう言うと思ってた」
「へ?」
私は予想外の発言に思わず顔を上げてしまいます。
スズちゃんは優しく微笑んでいました。
「さーちゃんの言う通り。同盟を組めば、他にかーくんへ想いを寄せている人が告白できなくなる。それに理由はこれだけじゃないでしょ?」
「う、うん……自分の力でお兄ちゃんを振り向かせたい」
今はまだお兄ちゃん側としては私のことを妹だと思っています。
私はそんなお兄ちゃんを自分の魅力で好きになってもらいたい。
どのくらいかかるか、わかりません。あの鈍感アホお兄のことだから一年経っても関係は変わらないかもしれません。
ですけど、それでもいいです。その間にお兄ちゃんに好きな人ができて、その人と付き合うという結果になってしまった場合は潔く諦めます。
だって……全力を尽くした結果がそれならば、仕方ないじゃないですか。それ以上しつこく追いかけ回したら、ストーカーとして訴えられかねません。
「私は私なりのやり方でお兄ちゃんを堕として見せる。なので……癪ですが、スズちゃんも自分なりのやり方でお兄ちゃんを射止めてください。これからも私たちは“仲間”ではなくて、“敵”です!」
「敵……ん、わかった。じゃあ、私もこれからは今まで以上に本気でいかせてもらうね?」
「望むところだよ!」
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