第74話 夕食
スズちゃんが再び起き上がってきた時にはすでに夕方五時を過ぎていた。
私はその間に家事をこなし、今は夕食の準備をしている。
一方でスズちゃんはというと、汗をかいたとかでシャワーを浴びてきているんだけど……
「髪乾かさないの? 風邪ひくよ?」
リビングに入ってきたかと思えば、まだ髪が濡れた状態だった。
「ドライヤーの場所がわからない」
「じゃあ、ちょっと来て。今から場所を教えるから」
私はIHを一旦止め、スズちゃんと一緒に洗面所へと向かいます。
そしてドライヤーの場所を教えたのちに再びリビングへと戻り、夕食の準備に取り掛かります。
――なんだろう。なんか、スズちゃん年上なのに年下を相手しているみたいな……。
妹の面倒を見ているみたい……。妹いないんですけど。
そんなこんなで夕食の準備が終わると、二人分のご飯と出来上がったおかずをそれぞれの席に並べます。
「いい匂い……」
ちょうどスズちゃんが戻ってきました。
相変わらずの銀髪……。シャワーを浴びたばかりということもあってか、いつもより心なしか煌めきが増しているようにも見えます。
とりあえずスズちゃんを席へと案内します。
「ここに座って」
「うん」
スズちゃんが私の目の前の席に座ったところで「いただきます」をしてから、夕食に箸をつけます。
「そう言えば、なんで今日泊まりに来たの? お兄ちゃんは合宿でいないってわかってたんだよね?」
本当にただの“女子会”だとは思っていません。
スズちゃんはご飯をはむっと食べながら、じぃ〜っと私を見つめます。何この小動物……私も女の子だけど可愛い。
「実はかーくんとの今後について話がある」
「やっぱり……。だいたいは予想ついてたけど、お兄ちゃんは――」
「それはわかってる。かーくんはさーちゃんのもの。だから私はその次でいい」
「……どういうこと?」
私は首を傾げます。自分はその次でいいって、つまり……
「愛人。私はかーくんの愛人でいい」
「……はい?」
ますます意味がわからなくなってきました。
愛人って……あの愛人のことだよね? 正妻の他に女がいるっていうあの……。
「かーくんはたぶん今がモテ期だと思う。それに伴って私とさーちゃん以外にも強力なライバルが出現してくる可能性は高い。そう思わない?」
「……モテ期かどうかはわからないけど、たしかにスズちゃんというライバルが現れたのはたしかですね」
私は嫌味を含めて、そう返した。
が、スズちゃんは気にした風もなく、淡々と話を続ける。
「今後さらにライバルが増えるのは私たちにとっては不本意。だからここで同盟を組みたいと思っている」
「同盟?」
スズちゃんはコクンと頷く。
「私たちにとって今、恐れなければいけない相手は雪平琴音だと思う。学校一の美少女とも言われているみたいだし、何かと危険。いつライバルとしてかーくん争奪戦に参加してくるかわからない」
「でも、雪平さんに限ってありえるかな?」
雪平さんの態度を見る限りでは、おにいちゃんのことを毛嫌いしているようにも見えるし、学校一の美少女さんが平凡なお兄ちゃんのことを好きになるわけない。
よって、これはありえない話になってくる。
「本当にそう思ってる?」
「へ?」
「人を好きになるのは一瞬の出来事。どうして好きになったのか、理屈では言い表せない。違う?」
「それはたしかにそうですけど……」
「念のためでもいいからここで同盟を結ぶべきだと思う」
「……そのさっきから同盟って具体的には何をするの?」
そこが一番わからなかった。同盟を結ぼうにもこちらとしてのメリットがなければ、やる意味がない。
「簡単なこと。さーちゃんをかーくんの正妻として、私を二番目にする。その他の女子は受け入れない」
「それってつまり……」
スズちゃんがコクンと頷く。
「そう。ハーレム」
「いや、おかしいでしょ! 私たちの方からハーレムを提案するなんて」
複数の女子が一人の男子を愛し合う……そんなの絶対に変!
「そう? 外国とかでは認められている地域はいっぱいあるけど」
「それはそうだけど、ここは日本だよ? 日本での常識というものがあるじゃん!」
ハーレムなんて……馬鹿馬鹿しすぎる。
私としてはお兄ちゃんに“私自身だけ”を愛してほしい。ハーレムになったらその愛が人数分折半されるということになる。
「……わかった。だけど、一応考えてほしい。私はいつでも待ってるから」
スズちゃんはそう言うと、何事もなかったかのようにご飯を食べ始めた。
ハーレム……それを許してしまったら、どうなるって言うの?
私の中ではそのことがずっともやもやし続けるのだった。
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