第72話 楽園
お兄ちゃんが家を出発した後。
私はさっそくお兄ちゃんの部屋に侵入していました。
いつ見ても楽園のような場所。
お兄ちゃんがこの部屋を使い始めてから今日までの染み付いた匂い……。
お兄ちゃんが毎日欠かさず愛用しているベッド!
お兄ちゃんの秘宝が隠されたクレーゼットのタンス!!
「ここが私の追い求めていたところ!」
さっそくベッドの上にダイブします。
お兄ちゃんが帰ってくる月曜日までの間はここが私の居住空間です。
「すーはーすーはー……ぐへへ♡」
布団の匂いを存分に嗅ぎながら、またゴロゴロします。
なんて最高な日!
……いや、お兄ちゃんがいないからそうでもないけど、でも普段では滅多に味わえないことが存分にできる!
――しあわせぇ〜……。
もう幸福感でいっぱいになり過ぎてとろけちゃいそぅ……。
そんなこんなをしているうちに気がつけば、お兄ちゃんが家を出てから一時間が経過していました。
――時間過ぎるの早い!?
いつもより十倍速なんじゃないかというくらいです。
――とりあえず家事をしなくては……。
そう思い、少し名残惜しいベッドから立ち上がった時。
ピンポ〜ン♪
インターフォンが家中に響き渡りました。
今日はたしか誰も来る予定はなかったはずです。お兄ちゃんにしてもすでに一時間は経過しているため、特段な理由がない限りはあり得ません。
ひとまず一階へと降りた私は玄関ドアを開けます。
「……げっ」
そこにいたのは幼なじみのスズちゃんでした。
私は即座に閉めます。
――嫌な予感がする……。このまま追い払おうかな?
と、思ったんだけど、無碍に追い払うのもなんか気が引ける……。話だけでも聞いてみるか?
私は渋々と玄関ドアを開く。
「……で、何の用ですか? お兄ちゃんなら合宿でいませんけど?」
「大丈夫。今日はさーちゃんに用事があって来たから。つまるところさっそく中に入らせてもらうね?」
スズちゃんは私の返事も聞かず強引に中へと侵入してくる。
「ちょ、ちょっと!?」
今気づいたのですが、手には大きなボストンバッグ。
「す、スズちゃん……その荷物。もしかして……」
「そう。正解。今日は泊まりに来た。せっかくかーくんもいないことだし、女子会やろ?」
長い銀髪がひらりと揺れる。
「いやいやいや、急にそんな事言われても困るよ!」
「大丈夫。家事ならできる」
「そーいう問題じゃないっ!」
「じゃあ、私はかーくんの部屋で寝泊まりするね?」
聞いているのか、どうなのかスズちゃんは二階へ続く階段を上り始める。
「な、なんでお兄ちゃんの部屋なの!? ゲストルームなら一階にあるけど!」
「いい。かーくんの部屋で寝る」
そう言うと、スズちゃんは逃げるように階段を駆け上っていった。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
私の楽園が……。さらば楽園。またいつか……
「って、諦められるかっ!」
私はすぐさまスズちゃんの後を追って二階へと駆け上がった。
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