第69話 クセが強い
朝の外はまだ太陽が登って間もないと言うこともあってか、意外にも涼しい。
ビジネスホテルから徒歩二分のところにあるコンビニへと足を運び、自動ドアを潜り抜けると、お馴染みのメロディーが俺を出迎えてくれる。
「っらしゃいぁせー」
地元のフリーターだろうか? 若い男性店員が少し怠そうな感じで挨拶をする。
接客態度うんぬんに関してはいろいろと思うところはあるにせよ、とりあえず頼まれていたサンドウィッチと水をカゴの中へと入れていく。
――あとは俺の分だな。何を食べようか……。
弁当コーナーで迷っていると、お馴染みのメロディーがまた店内に響き渡る。
「っらしゃいあせえええええ!」
なんかさっきより店員の挨拶にやる気が満ちているような気がしたが気のせいだろうか?
とりあえず気にせずにそのまま悩み続けていると……
「おっ。工藤じゃないか」
後方から聞き馴染みのある声をかけられたと同時に背中をバンっと叩かれる。
振り返ると、そこにはやけに薄着をした中野先生がいた。
――通りで店員も張り切った声を出すわけだ……。
薄いノースリーブにジーンズのショートパンツと先生らしからぬ痴女みたいな格好。ところどころブラが見え隠れしていて大人のエロさというものを感じてしまう。ロリ巨乳のくせに。
「せ、先生も朝食を買いに来たんですか?」
「まぁな。ちょっと昨日は飲み過ぎて食欲はないが、少しは食べた方がいいだろ? だから軽めの朝食をと思ってな」
中野先生はツナマヨおにぎりを二つ手に取ると、俺のカゴの中へと入れる。
「この会計は私が持とう。昨日のちょっとした労いだ」
「……ありがとうございます」
「うむ。で、工藤は何を食べたいんだ?」
俺も中野先生と同じように梅と昆布のおにぎりを一つずつ入れる。
そして飲み物にカフェオレを選んだ。
「これだけでいいのか? 腹が減ると思うが?」
「いえ、これだけで十分ですよ。俺、こう見えて省燃費ですから」
「……見た目通りだろ」
中野先生は俺をひと通り見るなり、そう呟く。
それは遠回しに俺のことをひょろひょろとでも言いたいのかしらん?
奢ってもらう手前、何も言い返せない。
やがて会計を済ませるため、レジの方へと向かう。
「っらしゃいあせええええええええ!」
相変わらず中野先生相手に対しては張り切り出す店員。
素早くカゴの中にあった商品をスキャナに通して、合計を算出する。
「っりがとうございあしたぁああああ! ったお越しくださあいやあせえええええ!」
支払いを終え、俺と中野先生はコンビニを後にした。
「さっきの店員さん。クセがなかなかに強いな」
「ほんとそうですね……」
まぁあそこまでさせたのは半分あなたのせいなんですけどね。
俺は買い物袋を手に持ちながら、海の方へと目を向ける。
目の前には大海原……穏やかな波が押し寄せては消えを繰り返している。
微かな塩の匂い……今日も地獄のように働かせられるのかと思うと気分が自然と落ち込んでしまう……。
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