第67話 就寝
合宿初日を終え、午後十一時。
俺と雪平は結局同じ部屋で寝泊まりすることになったんだが、それにしても今日はものすごく疲れた。
ベッドの布団に潜りながら、一日を振り返ってみるが、こんな充実した日を過ごしたのは結構久しぶりではないだろうか? 下手をすれば、初めてかもしれない。それくらい濃厚な一日だった。
これがまた明日もあると思うと、自然と憂鬱な気分になってしまうというか……早く家に帰りたい。
それにこのホテル、夕食時になってから気が付いたんだが、食事に関しては各自で摂るようになっているらしく、簡単に説明すれば、中に食堂やレストランといった類が一切ない。
そのことに気がついた頃にはもう午後七時を回ってたし、急いで近くのコンビニへと駆け込んだんだが、ロクなものしか売ってなかった。
ということもあり、少々腹が減っている次第ではあるが、こればかりは仕方ない。今、コンビニに言ったところでお菓子しかないしな。一応カップ麺も売っていることは売っているのだが、部屋にケトルが備え付けられていないため、食べることが必然的にできない。
――不便……。不便すぎないか?
ビジネスホテルってこんな感じなのか? 普通のホテルなら何度か宿泊したことはあるにせよ、ビジネスホテルに関しては初めてだから、よくわからない。
と、まぁ考えれば考えるほど、愚痴などが出てきてしまうのだが、ベッドの寝心地だけは最高だ。
あ、ちなみに中野先生はというと、夕方の五時過ぎに酔っ払った状態で帰ってきたと同時に自分の部屋で爆睡中。
今の様子はわからないが、ともかくとしてビキニ姿は寒いだろうなぁ……。
一応ベッドに倒れ込んだところで布団は被せてあるけど。
――もう雪平は寝ただろうか?
違うベッドに寝ているとはいえ、背中合わせになっているためどうなのかが確認できないが、俺もそろそろ眠くなってきた。
瞼がどんどんと重くなっていき、自然と目が閉じられてしまう。
そして数分後。俺は深い眠りへと誘われた。
☆
スズメの囀りが部屋の窓越しから耳を優しく刺激する。
カーテンの隙間からは朝の日差しが入り、部屋全体を薄明るくしてくれていた。
そんな中で俺は目を覚ます。
隣を見れば、雪平が気持ちよさそうにまだ惰眠していた……
「ゆ、雪平?!」
脳が覚醒したと同時に俺は布団を蹴散らす。
何かの見間違いかと思い、何度も目を擦ってみたが、間違いない。雪平だ。
それにしてもなんで雪平が俺のベッドですやすやと寝ているんだよ……。
状況が掴めない……いや、把握はできているけど、どうしてこうなった?
――夜トイレに行った後、寝ぼけて間違って俺のベッドに潜り込んだか?
でも、あの雪平が寝ぼける……なんか想像できないなぁ。
――なら、寝相が悪いとかか?
いや、もしそうだったとしても俺のベッドまでどう行き着くんだよ。ベッドとの間がだいたい五十センチくらい離れてるんだぞ? 寝返りをしながらジャンプでもしたのか? こっちの方が非現実的だな。
「うう……ん……」
雪平は寝返りを打つ。
とにかく今は雪平が起きる前にどうにか事態の収拾に尽力を尽くさなければならない。かくなる上は雪平を隣のベッドへ移す……というか、これしかない。
俺はそっと近づく。
まだ熟睡しているあたり大丈夫だ。
俺はお姫様抱っこをする形へと入る。
ゆっくりと頭を持ち上げ……
「……何してるの変態」
俺はすぐさまに距離を取る。
さっきまで熟睡してたのにいつの間に起きたんだよ!
「もしかして……襲おうとしてました?」
「んなわけないだろ! お前を隣のベッドに運んでやろうとしてただけだ!」
雪平は後ろに視線を向ける。
「……なんで私、和樹くんのベッドにいるんでしょうか?」
「それは俺が逆に聞きたいわ!」
「え?」
「え? じゃねーよ! まるで俺がその答えを知っているような言い方だな」
「知ってるんじゃないんですか?」
「一応言っておくが、俺は別に手なんて何も出しちゃいないからな? それと警察に連絡しようとするのやめてくれない?」
気がつけば、雪平の片手には自身のスマホが握られており、画面には「一一◯」の番号が表示されていた。
「本当に何もしていないんですね?」
「当たり前だろ」
「この変態!」
「その罵声は何に対してなんだ?」
僕ちゃんものすごぉーく理不尽!
雪平はスマホ画面を閉じると、自分のベッドへと戻っていく。
「では、二度寝するので起こさないでくださいね」
そう言うなり、ベッドに潜り込んだ雪平は一分も経過しないうちに熟睡モードへと突入していった。
まぁ、まだ朝の六時だし、二度寝するくらいの時間の余裕はあるけども……お前は第二のの◯太か? 普通二度寝でも熟睡するまでにそれ相応な時間が必要になってくると思うけど……。
そんなことを思いつつ、俺もまた二度寝した。
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