第66話 宿泊室の取り決め
海江田さんと中野先生はしばらくの間、海の家でビールでも飲んで楽しんでおくということだったので、残された俺と雪平は同時に更衣室で服に着替えた後、ホテルへ戻ることにした。
二人でホテルのエントランスを潜り抜けると、そのままエレベーターへと乗り込む。
さすがボロいとはいえ、一応ホテルなわけあって、クーラーは程よく効いていて涼しい。
そのまま部屋がある階へと昇り詰めると、部屋の鍵を取り出す。
さて、ここからが問題だ。
先ほどまでの出来事もあり、随分と前の話のように感じられなくもないが、俺と雪平の部屋は一緒にされている。
これもすべてロリ巨乳がやったことなんだが、こっちとしてはいい迷惑だ。
アニメとか漫画ならば、こういうようなシチュエーションからラブコメへと発展することは少なくもないが、こと俺と雪平に関しては絶対と言っていいほどにありえない。
というか、想像できるか? 俺と雪平がラブコメだぞ? イチャイチャすんだぞ? ははは。夢のまた夢。非現実的だ。
とりあえず部屋の鍵を開け、中へと入る。
すると、さっそくだが、予想通りというか、雪平が行動に移る。
ドア付近に置いてあった俺の着替えなどが入ったボストンバッグを容赦なく、廊下へと放り投げる。
「よいしょー」
「何してんだよてめぇ!」
「ごめんなさい。手が滑っちゃったわ」
「んなわけあるかッ! さっさと取ってこいよ!」
「ごめんなさい。たった今、両足を痛めてしまったわ。いてて」
「思いっきり真顔だし、棒読みだぞ? それにお前がやろうとしていることくらいわかってんだからな?」
俺が自分のボストンバッグを取りに廊下へ出た瞬間、部屋の鍵を閉める魂胆だろ。
だが、残念ながら部屋の鍵は俺が握っているし、例え、内側からチェーンをかけられたとしてもその対策はできている。
というわけで俺も同じくして雪平のキャリーバッグを素早く奪い取ると、廊下の方へと転がしていく。
「よいしょー」
「チッ……あなた女子に対して容赦ないわね」
「当たり前だろ。女子に手加減なんかしてたら弱肉強食な社会を生き抜いてはいけないだろ」
社会では今の時代、昔とは違って、男女平等を掲げられている。
例え、男だろうと能力が女より劣っていれば、必然的に優っている方が出世するし、性別どうのこうのでできない仕事なんてほとんどなくなってきているだろう。
この理屈で言うならば、女子だからといって、手加減していては将来的に痛い目を見るのは男子だ。容赦ないと思われるかもしれないが、後々になって手加減しなければよかったと後悔するよりかはマシだ。
「それもそうね。和樹くんの考えは間違っていないと思うわ」
「そうだろ? なら、ここは公平に話し合いで決めよう。その方が後味もいいだろ?」
俺は廊下に投げ出された自分の荷物を取りに出る。
雪平も同じくして自分の荷物を取りに出た後、二人して部屋の中へと戻った。
――ここからどうするか、だ。
部屋の広さを見た限りでは八畳ほど。
そこにベッドが二つあって、小さな冷蔵庫とテレビが備え付けられている。
出入り口から部屋までの廊下にはユニットバスがあり、コートや上着をかけることができるちょっとしたクローゼットもある。
本当に狭い部屋……。
風呂に関してはどうすんだよと一瞬思ったが、たしか一階に大浴場があったはずだ。
あそこなら利用客は無料で入ることができるため、そこを使えばいい。
残すは部屋の使い分け……。単純に考えれば、ベッドを境にして半分にすればいいのだが、間にはカーテンも何もない。プライベート空間がまるっきりないのだ。
――どうせ二泊しかしないし、我慢するか?
俺としては別にプライベート空間が多少なくても、ゆったりできるところさえあればそれで十分だ。
しかし、雪平はどうだろうか?
「なぁ雪平?」
「なんですか?」
「プライベート空間は欲しいか?」
「……できれば」
「無理だったら諦めてくれるか?」
「……まぁこの際は仕方ないでしょうし、プライベート空間は諦めますけど……それよりも寝るときが心配です」
と、雪平は俺をじとっとした目で見つめ、自分の体を庇う仕草を取って見せる。
「安心しろ。別にお前なんて――」
バチンッ!
「イッたああああ! って、いきなり何すんだよ!?」
俺は涙目になりながら、左の頬を片手で抑える。
雪平は特段悪びれる様子もなく、淡々と口を開く。
「あ。ごめんなさい。和樹くんの頬に虫がいたものだからつい叩いちゃったわ。感謝しなさい」
「いや嘘だろ!?」
「嘘だという証拠があるのかしら?」
「じゃあ、逆に聞くが、虫がいたっていう証拠があるのかよ?」
雪平はじぃ〜っと俺を見つめる。
「ほら、ここにいるじゃない」
雪平は俺の胸あたりに指を差す。
「いねーよ!」
「もしかして見えてない? 眼科行く? というか、そもそも眼科であってるのかしら?」
「やかましいわ! というか、それはこっちのセリフだ!」
なぜ雪平とはいつもこうなってしまうのだろうか?
そう思いつつ、俺は廊下側のベッドの上にボストンバッグを放り投げる。
「俺はこっち側を使うから雪平は奥のベッドな?」
結局具体的な部屋の使い方は決まらずに時間を確認してみれば、午後三時を過ぎていた。
とりあえず、夕食までには時間がある。
真夏の蒸し暑い中で焼きそばを作り続けたせいもあって、身体中が焼きそばの匂いで少し臭い。
ベッドの上に放り投げていたボストンバッグの中から着替えなど入浴に必要なものを取り出していく。
「じゃあ、俺は一階の大浴場で汗を流してくるから」
一応、念のために雪平に報告を終え、部屋の鍵をしっかりと持ってから大浴場へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます