第63話 合宿初日⑨
海の家に戻るとスタイルのいい見知らぬ女性と雪平が何か立ち話をしていた。
ポニーテールに肌は焼けているのか褐色。顔はほんわかとしていて優しそうでかつ美人であり、身長も俺と同じくらいに高くボン! キュッ! ボン!
隣にいる中野先生と見比べてもスタイルの良さは断然にこの人が勝っている。
「おお! やっと来たか!」
中野先生はそう言うなり、見知らぬ女性のところまで駆け寄る。
「ゆーちゃん久しぶりー! 遅くなってごめんネ!」
「いや、私たちもつい先ほど来たばかりだからまだいいんだが……あ、そうだ。雪平はもう自己紹介を済ませたか?」
「ええ、一応は……」
「そうか。じゃあ、工藤のために改めて紹介するが、彼女はこの海の家の経営者にして私の幼なじみでもある
「よろしくネ!」
海江田さんは俺に向けて、ほんわかと微笑んで見せる。
なんか落ち着くなぁ……。
「で、この犯罪者予備軍みたいな男子が私のもう一人の生徒である工藤和樹だ」
俺はペコリとお辞儀をしつつ、中野先生に抗議の眼差しを向ける。
「ちょっと自分の生徒なんですから、もう少しマシな紹介の仕方はないんですか?」
「悪いな。でも、私にはこの紹介が精一杯だ。許せ」
「許せるか! 先生ならちゃんと生徒のいいところとか見ているはずでしょ!」
教師というものはおそらく信頼関係も大切になってくる。
生徒の悩みを聞いてあげたり、時には叱ってやったり……その上で各生徒のいいところ悪いところを見出しているはずだ。
だが、中野先生は小首を傾げる仕草を見せる。
「じゃあ、逆に聞くが、自分のいいところを言ってみろ」
「いいところですか……」
「ああ、最低でも五個以上はあるんじゃないか?」
たしかに。
自分のいいところなんて五個以上あって当たり前みたいなところがあるよな。
例えば、頭がいいところと優しいところ、妹思いに、それと……………………あ、あれ? これ以上まったく思い浮かばないんだが?
「どうした? 出てこないか?」
「そ、そんなわけ……ないじゃないですか」
「じゃあ、言ってみろ」
俺は一回深呼吸を挟んだのち、頭に思い浮かべていることをすべて吐き出す。
「頭がいいところと優しいところ、妹思いに……背が高いところと、か、顔がかっこいいところですかね?」
最後のいいところを言った瞬間、夏なのに冷たい風が吹いたように感じた。
「「「……」」」
三人とも俺を極寒のような瞳で見つめたまま、ひと言も口にしない。
――ちょ……そんな目でワタシを見ないでぇ〜!
「工藤……お前、本気で自分のことがかっこいいと思っているのか?」
なんか可哀想なものに対して語りかけているような表情をする中野先生。
「……いえ」
「そうだよな? 工藤は別にブサイクとまではいかないが、逆にイケメンとまでもいかない。強いて言うなら平凡すぎる顔だ」
なんでだろう……。ブサイクでないことに喜ぶべきだろうが、まったくもって喜べない。
「お前のいいところはむしろぼっちなところじゃないか? 何に対しても囚われず、己の道を突き進む姿……それが工藤のいいところだ」
「……」
それって要するに集団行動ができないやつと遠回しに言っているのかしらん?
……まぁその通りであることには変わりないし、誰かと同じような生き方をしたいとも思わないんだけどな。
とにもかくにも今回わかったことと言えば……俺にはいいところなんて五個もないと言うことだ。
いいところとはすなわち自分自身の長所でもあり、特別推薦枠の面接の際には聞かれる可能性は高い。
それまでに自分の長所を身につけなければならない……そう思った。
【あとがき】
合宿初日だけで1万字もいった……。まだまだ初日のストーリーは続きそうです……トホホ。
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