第58話 合宿初日④

 一階のエントランスホールに降りると、すでに中野先生が待っていた。

 先ほどとは服装は変わり、随分と薄着だ。

 襟首からチラッと見える水着がなんともエロいというか……水着だとわかっているのに思わずドキッとしてしまう。


「遅いぞお前たち……って、着替えてないのか?」

「あんな状況で着替えられるわけないでしょ……」


 ホテルに到着したかと思えば、部屋に向かえばまさかの雪平と同室だぞ?

 そんな現実を前にして、簡単に受け止められるわけないだろ。

 現時点でもどうするか決まっていないし……かと言って、どちらとも部屋を使わないわけにはいかないから、どの道、受け入れるしかないとは思うけどさ……。そこのところはおいおい雪平とまた話すか。


「工藤にとってはむしろラッキーなシチュエーションを用意してやったつもりだったんだけどな」


 中野先生はニヤリと悪い笑みを浮かべ、一方で雪平は俺を犯罪者でも見るかのような目つきで自分の体を両手で抱きしめる。


「そんなシチュエーションいりませんよ!」


 だいたい雪平の体なんて別に……別に気になるとかないんだからねっ! あんなぺったんこなんて!


「本当にか? 私は工藤が喜ぶと思って……」

「嘘つけ! というか、さっき言ってたじゃないですか! 経費削減だって。それにこれ以上、俺の信頼と信用が失墜するような発言はしないでください!」


 おかげさまで雪平の態度は先ほどとはだいぶ変わり、もはや変態を見るような目つきに変貌していた。

 ……まぁとはいえ、雪平の俺に対する信頼と信用は限りなく、ゼロに近いものだから、さほど変わりはしない。ただ毒舌や態度が普段より少しキツくなるだけだ。


「悪かった悪かった。冗談だ。でも、本当にここで着替えていかなくてもいいのか? 海遊浜だと利用客が多すぎて、更衣室に入るにも結構な時間を要すると思うのだが?」

「それに関しては大丈夫です。というよりも私的には更衣室の方がありがたいですし。いつ盗撮されているのかわからないですからね」

「こっちを見て言うな。俺はそんなことは決してしねーぞ」

「……どうだか」

「じゃあ、工藤も部屋じゃなくて向こうで着替えるんだな?」

「ええ、まぁ……」

「わかった。もうそろそろ時間だから出発するか」


 俺はポケットの中に突っ込んでいたスマホを手に取り、画面を確認する。

 時刻は午前十時をちょうど過ぎたあたりだ。

 中野先生が言っていた“手伝い”をする時間帯としてはちょうどいい具合ではないだろうか?

 そんなことを思いつつ、俺たちはホテルを後にした。

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