第57話 合宿初日③
荷物を手にホテルの中へと入ると、そこはいかにも安そうなビジネスホテルだった。
外装も鉄筋コンクリートでできていると思うのだが、ところどころひび割れがあったり、錆び付いていたり……ここ耐久度的には大丈夫なのか?
少し不安が残りつつも、エレベーターを使って最上階である五階へと上る。
そして、上り終えたところで中野先生から部屋の鍵を手渡された。
「こんなところで悪いな。これもすべて経費でやりくりしないといけないからな。なるべく費用を抑えたいんだよ。ほい、これがお前“たち”の部屋の鍵だ。荷物を運び終えたら、一階の玄関に集合な」
中野先生はそう告げると、先に部屋の中へと入ってしまった。
俺の手には今、部屋の鍵が一つしかない。
このことが意味することはつまり……
「和樹くん」
「な、なんだ……?」
「あなたには悪いけど、合宿中は廊下で過ごしてくれるかしら?」
「アホか! ホテルの人に不審者だと思われて連行されてしまうわ!」
「いいじゃない。連行された暁には冷房が効いた警察署内よ?」
「そう思うんだったら、逆に雪平がそうすればいいだろ?」
「バカじゃないの? あなたには一般常識というものが欠落しているのかしら?」
「お前に言われたくねぇ!」
ひとしきり言い合いを終え、俺の中でどっと疲れが押し寄せてくる。
とにもかくにもこのままじゃ納得ができないし、意味がわからない。
思春期真っ盛りな男女を同じ部屋で寝泊まり? 何を考えてんだよ。あのロリっ子は!?
「……ひとまず中野先生に抗議するぞ。その後、どうするかを考えればいい」
「そうね」
俺と雪平はエレベーター付近に一旦荷物を置くと、その近くにある中野先生が宿泊する部屋のインターホンを鳴らす。
「ん? どうした?」
すぐにドアが開いたかと思えば、隙間からひょっこりと顔を出す中野先生。
「私は今、水着に着替えている途中なんだが?」
「なら、着替えてから出てきてくださいよ……」
中野先生の胸に実るたわわが気にならないわけではないが、それよりも呆れの方が勝ってしまった。
「まぁ工藤の言う通りだが、こうして出てしまったものは仕方ない。ついでだから手短に要件を言え」
「じゃあ、単刀直入で聞きますけど、なぜ私たちの部屋は一つだけなのでしょうか?」
隣にいた雪平が声を尖らせながらそう訊ねた。
すると、中野先生は迷いもなく、すぐに口を開く。
「経費削減! これ以上の答えなどない。もういいか? いいよな? じゃあまた後でな」
バタンッ!
一方的にドアを閉められてしまった。これ以上の質疑応答は受け入れないと言わんばかりに……。
「こうなってしまった以上仕方ありませんね。和樹くん。廊下で――」
「バカを言うな。とりあえず部屋に行くぞ」
雪平のペースに飲まれては話が一向に平行線のままだ。
俺は強引ながらも話を打ち切り、エレベーターの方へと向かうと、自分の荷物を手に、部屋の方へと向かう。
その後ろで雪平もどこか不満げな表情をしつつも、同じく後をついてくる。
「ここが俺たちの部屋か……」
手渡された鍵に記された番号と一致している。
さっそく鍵を開け、中へと入ると……さすがビジネスホテル。ベッドは一応二つあるということを考えると、ツインだと思うが、それにしても部屋が狭い! ベッドが部屋の半分以上を閉めている上にテレビも何もない。不便すぎるだろ……。
「とりあえず、どうするかは向こうで考えるぞ。中野先生もたぶん今頃は下の方で待っていると思うしな」
「そうね……」
納得がいっていないのはお互い様だが、ここは一旦休戦した方がいい。
雪平もおそらくわかっている。
必要な荷物だけを手に俺たちは部屋を出た。
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