第53話

 家へとたどり着き、玄関ドアを開ける。


「お兄ちゃんおかえり……って、は?!」


 リビングの方からとてとてと駆け足で出迎えてくれたかと思えば、桜はすぐに顔をしかめる。


「……なんでスズちゃんがいんの?」


 桜は俺の方にジト目を向ける。


「あー……帰る途中に偶然バッタリと会ったんだよ。それでスズちゃんが気を利かせてくれて荷物を一つ持ってもらうことになんたんだけど……」

「さーちゃん。かーくんの言う通り。それに私はこれで帰るつもりだから」


 スズちゃんは玄関先に買い物袋を置くと、一礼して外へと出ようとする。


「ちょ、ちょっと待って。本当に帰るのか?」


 俺は思わず、スズちゃんを呼び止めてしまった。

 すると、スズちゃんはこちらの方に振り返ると、薄い笑みを浮かべる。


「うん、もうすぐ五時だしね。それに、将来の私の義妹を怒らせるわけにはいかないでしょ? さーちゃんは私を家の中に入れたくなさそうだし」

「だ、誰が“将来の義妹”なの! 桜はスズちゃんの義妹になるつもりはありませんっ!」


 桜はむぅ〜っと頬を膨らませる。


「またまた照れちゃって……そういうお年頃、なのね」

「違うわ! 素で言ってるの!」

「え、えーっと、とりあえずスズちゃんは帰るんだよな?」

「うん」

「じゃあ、俺が途中まで――」

「ううん、大丈夫。まだ外は明るいから」


 スズちゃんはそう言うと、次こそ「またね」と言って、玄関ドアの向こう側へと行ってしまった。


「ほんとなんなの! あの人」

「ま、まぁ……」


 桜は地団駄を踏むかのように買い物袋を二つ手に持つと、リビングの方へと入っていった。


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