第52話 休憩

 ショッピングセンターで買い物を終えたその帰り。

 自宅付近のバス停から降りた頃には午後四時を迎えようとしていた。

 両手には大きな買い物袋が二つ。

 桜から頼まれていた物(食材や日用雑貨等)が思っていたよりも多く、一人で運べるのがやっとなくらいだ。

 それにこの暑さ。

 午後四時を回ったとはいえ、まだ三十度は余裕で越している。

 俺は全身汗をだらだらとかきながら、帰宅路を歩き、半分くらいまで来たところで近くの公園で一旦休憩をすることにした。

 買い物袋の中には当然生物も入っているため、すぐに帰宅した方がいいのだが、脱水症状や熱中症になってしまったらもともこうもない。

 こういう時こそ、無理せず適度な休憩が必要だ。

 とはいえ、一応木陰の下にあるベンチに荷物を置くと、近くにあった自販機で水を購入する。

 そして、どのくらいかひと息つく。


「かーくん……?」


 と、いきなり後ろから声をかけられ、俺は咄嗟的に振り返る。

 すると、そこにいたのはまだ制服姿のスズちゃんだった。


「何してるの?」


 スズちゃんは煌めく銀髪を揺らしながら小首を傾げて見せる。


「見ての通り休憩しているだけなんだけど……それよりスズちゃんは何してんだ? 学校が終わってもう随分と時間が経ってるだろ」


 たしか午前十一時過ぎにはもう終わっていたと思うから、それを考えると、約五時間。

 一体、私服にも着替えず、制服で何をしていたというのだろうか……?


「私の両親が共働きなの知ってるよね?」

「あ、ああ……」


 スズちゃんは俺の隣に腰を下ろす。


「家にいても一人だからずっとうろちょろしてた」

「……今までか?」

「うん、探検してるみたいで結構楽しい」


 という割には結構汗をかいているようにも見える。

 が、不思議と汗臭い匂いとかは一切しない。むしろ甘い匂いがするというか……とにかくいい匂いで結構好き、かも……。


「かーくん」

「えっ?! あ、ど、どうした?」


 ついスズちゃんの匂いにうっとりしてしまった。


「これから家に帰る?」

「う、うん。そのつもりだけど……?」

「じゃあ、荷物……一個持とうか?」

「いや、いいよ。もうすぐそこだし」


 女子に気を使わせるのは申し訳ない。

 それに俺は男だしな。男としてのプライドにもかかってくる。


「持とうか?」


 だが、スズちゃんは俺の話をまるで聞いていなかったかのように同じことを聞いてきた。


「いや、家近いからいいよ」

「持とうか?」

「いや、だから――」

「持とうか……?」


 スズちゃんの透き通るように蒼い瞳が俺を逃がすまいとじっと捉える。


「わ、わかった。じゃあ……お願いしようかな」


 そう言うと、スズちゃんはベンチから腰を上げ、ぺったんこな胸をポンっと叩いて見せる。


「任せて」

「あ、ああ……」


 なんとなくだが……スズちゃん。俺の家に行きたいだけ、だよね?

 スズちゃんはそうと決まれば、すぐさまに買い物袋の一つを手に取る。


「じゃあ行こ?」


 俺より先に公園の出入り口の方へと向かっていったスズちゃん。

 歩く際に髪がなんとも楽しげに揺れているように見えたのはたぶん気のせいだろう。

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