第51話 新妻感

 昼食後。

 自室にて、ノートパソコンを用いて夏期講習の申し込みを終えた俺は、出かける準備をしていた。

 具体的には何が必要なのかというのはまだわかっていない。

 が、少なくとも水着とその上から着用する薄いパーカーみたいなものは必要になってくるだろう。あ、それとサンダルもか。

 普段から海に行くことは滅多にないし、前回行ったのってたしか……小学校四年生くらいの時だったはず。

 それくらい俺と海は縁のない関係ということだ。

 俺は準備を終えると、四つ折りの財布とスマホをポケットに自室を出て、階段を下りる。


「あ、お兄ちゃん。今から出かけるの?」


 ちょうど皿洗いを終えたらしい桜がリビングの方からひょっこりと顔を出す。


「ああ、まぁな。そう言う桜もこの後、友だちと何か約束でもしてんのか?」

「ううん、今日は何もしてないからずっと家だよ」


 桜はそう言うと小さなメモ用紙を手渡してきた。


「ん? 何これ?」

「ついでだから買い出しお願い! 本当は桜が行く予定だったけど、今日って天気いいでしょ? 少しでもいいからタオルケットとか干したいんだよね」

「わかった。じゃあ、お金は後で渡せよ? 親が仕送りしてくる通帳は今、桜が持ってるんだからさ」

「うん、それはわかってるって。ただ、お金下ろしてないから後日になるけどいい?」

「……まぁ返ってくるならいいけど」

「ありがと。てか、そんな渋い顔しなくてもよくない? これまで桜がお兄ちゃんのお金を盗ったことある?」

「いや、ないな」

「でしょ? なら、疑心暗鬼な顔をしない! じゃあ、早く行ってきて。もうすぐ一時だから」


 俺は桜から背中を押され、玄関先へと向かう。

 そして、靴に履き替えたところで家を出る。


「いってらっしゃいお兄ちゃん」

「ああ、いってきます」


 フリルの付いたいつもの可愛らしいエプロンを身につけながら、桜は手を振って見送ってくれた。

 外へと出ると、強い日差しが一気に俺へと襲いかかる。

 じりじりとした暑さ漂い、道路の向こう側を見ると、陽炎で地面がゆらゆらとしていた。

 それにしてもあれだな。

 やっぱり最近の桜を見ると、新妻感が出ていたむず痒い気持ちになってしまう。

 これはいいことなのかそれとも悪いことなのか……断然とはしないが、少なくとも悪い気はしない。

 ――って、何考えてんだよ俺……。

 そんなことを頭の中で考えつつ、市街地まで走っているバスの停留所まで歩くのだった。


【あとがき】

カクヨムコンテスト始まってしまいましたね……。

これも全体的に改稿しないといけないけど……時間がねぇ!

しかも新作のプロットも作っていて、そちらも今週の土曜日くらいから投稿したいし……うぎゃああああああああああああああ!

というか、この作品と『塩対応』が思ったよりも長くなりそうだという誤算……ふはっ。

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