第45話 一匹増えてる……
午前の部が終わり、昼休みに入った。
みんなは一旦昼食を摂るべく、一斉にクラスの教室へと戻って行く。
俺もまたその一人なんだが、向かっている場所はもちろんいつものところ。
階段を駆け上がり、屋上へと続くドアを開ける。
すると、すぐ近くの段差に腰掛けて、弁当箱を広げていた雪平を発見した。
「……生きてたの?」
「なんで俺が死んだみたいな言い方してんだよ……」
「だって、和樹くんリア充嫌いじゃない」
「それはそうだが、リア充を目にしただけで死ぬようなそんな脆弱体質じゃねーよ」
俺はそう言いつつ、雪平から少し離れた位置にお尻をつける。
「そう言えば、雪平はバスケだったか?」
「ええ、肌を焼きたくないもの」
たしかに今は夏真っ盛り。
梅雨の時とは違い、ほぼ毎日炎天下だから女子はなおさら気にするだろうな。
「なら、ここで昼食を摂るのもやめたらどうだ? 日差し強いだろ?」
これを機に俺のテリトリーから出て行ってくれ。
と、思ったんだが、雪平はきょとんとした表情で小首を傾げる。
「馬鹿なの?」
その反応に多少イラッとしてしまう。
「お前、肌焼きたくないんじゃないのかよ。外にいる限り、いくら日焼け止め塗ってたところで少しは紫外線を通すだろ……」
「それはそうかもしれないけど、ここを失えば、昼食を摂る場所がないじゃない」
雪平は食べやすいサイズに切り分けた卵焼きをひと口頬張る。
「もう基準がわからねぇ……」
日焼けしたくないのに外で昼食を摂るとか……どう考えてもおかしな話だろ。
と、そんな会話を繰り広げている最中に珍しくも軋む音を立てながらドアが開く。
「かーくん。一緒に弁当食べよ?」
そう言って、現れたのは幼なじみの銀髪碧眼美少女スズちゃんだ。
手には重箱でも包まれていそうな大きな風呂敷が握られている。
「あ、そう言えば和樹くん。あなた弁当は?」
「ああ、それなら――」
「かーくん早く弁当食べよ?」
まったく俺の話に耳を貸そうとしないスズちゃん。
俺の話を遮って、無理矢理箸を握らせようとしてくる。
それに対し、雪平はしかめた表情をしつつ、自分の弁当箱をつつく。
そういや、雪平とスズちゃんは仲が悪かったんだよなぁ……。
なんでそんなに犬猿の仲みたいになっちゃっているのか……よくわからないが、とりあえずスズちゃんが隣に座ったところで大きな包みを解き始めた。
「……本当に重箱だったんだな」
「……?」
スズちゃんは何を言っているのかわからないといった顔をしていたが、こっちに話だ。
「かーくん、食べて食べて」
「いや、でも……」
「お願いかーくん……」
透き通るような蒼い瞳が俺を捉える。
そんなうるうるとした上目遣いで見られては、無理にでも断れない……。
ここはしょうがない。せっかく勧めてくれたんだから一つだけ……。
俺は唐揚げに箸を伸ばす。
「お兄ちゃんお待たせ! 愛情たっぷりの愛妻弁当持ってきたゾ♡」
勢いよくドアが開かれたかと思いきや、次は桜が現れた。
……いや、実は言うと、今日は桜と一緒に食べる約束をしていた。
俺の弁当箱がなぜか粉々に壊れていたため、今回だけは事情だけにそのような処置にしたんだが……
「い、いいいいいい一匹……増えて、る……?」
桜は俺たちの様子を見て、呆然とした表情を浮かべていた。
それからして、我に帰った桜は首を左右にブンブンと振る。
「あ、あああああなた誰ですか!?」
「涼宮凛だけど……さーちゃん、私のこと覚えてない?」
「凛…………………りーちゃん?!」
桜ははっとした顔をする。
「な、なんでりーちゃんがいるの?!」
「あれ? まだ言ってなかったか? 先日、俺らのクラスに転入してきたんだよ」
「はあああああああああああああああああああああ!?」
桜、落ち着け! せっかくの美少女が台無しっていうくらいに崩壊しちゃってるぞ。
「も、もう……なんで……」
桜は絶望したような表情を浮かべながらバタンと地面に膝をついた。
「またライバル……」
「一応言っておくけど、私はこんなゴキブリのことなんとも思ってないから」
「別に言われなくても俺自身が一番わかってるわ!」
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