第42話 学力検査当日④
市役所を出て、少し歩いたところで雪平は重々しい感じで口を開く。
「先ほどは取り乱したりしてごめんなさい……」
「いや……別に気にするな。で、話っていうのはなんだ?」
先ほどの様子を鑑みてもおそらくあのイケメン……諸星が関係しているのは間違い無いだろう。
雪平はすっかり淡い夕焼け色に染まった空を仰ぎ見ながら、ぽつりと呟く。
「あの男……私の婚約者なのよ」
「……は?」
「正確には許嫁。私の父は会社経営をしていて、あの男は取引相手の息子であって、幼なじみ。政略結婚て世間では言うのかしら……?」
まだそんな風習が残っていたとは……。
自分の会社を大きくしたいのはわからなくもないが、その己の野望のために娘を利用する考えが俺には理解できない。これは俺自身が一般家庭で育ってきたからだろうか……。どちらにせよ、金持ちの考えはよくわからん。
「で、雪平はどう想ってんだよ。諸星のこと」
「……嫌に決まってるじゃない。好きでもない人と結婚しなくちゃいけないなんて……。でも、向こうは私のことを受け入れているみたいだし……」
「それで親父さんには何も言えないと?」
「……いいえ、父には何度も言ったわ。結婚したくないって。けど、これは決まったことだからの一点張りで……。それに迅くんの顔を見ると、なんとも言えない罪悪感が湧いてくるのよ……。私だけ駄々をこねているみたいで……」
それであんな顔をしていたのか……。
雪平の気持ちはわかるような気がして、わからない。
誰だって、好きでもないやつと結婚だなんてしたくないのは当然だ。
だけど、それからくる”罪悪感”というものが正直イマイチ理解できないでいた。
「嫌なら嫌でそれでいいと思うけどな」
「……あなたにはわからないわよ。きっと……」
「そうだな。俺にはわからない。雪平が今後どうしたいのかすらもな。それさえわかれば、自ずと行動に移せるんじゃないか?」
「……」
雪平にはどこか迷いがあるようにも見える。
これは俺の単なる直感であって、長年ぼっちとして培ってきたスキル『人間観察』なのだが、本当はどうすればいいのか悩んでいると思う。
そのよくわからん”罪悪感”というのもそこから来ているのだろう。
父の期待に応えたいという気持ちと好きでもない人と結婚したくないという両方の気持ちがぶつかっている最中だ。
そのどちらかを選ぶのが雪平自身。俺がどうこうできるような立場ではない。
それさえ自分で気がつけば、きっと雪平自身にとっての将来が変わってくるはずだ。
やがて、学校の校門前へとたどり着く。
「送ってくれてありがとう」
「ああ。迎えは来るんだろ?」
「ええ、連絡してあるからもう少しで来ると思うわ」
「そうか。じゃあまたな」
「ええ、さようなら」
ここで”また”と言わないあたり、少しは元気を取り戻せたんだろう……ったく。
って、今更ながらに気づいたんだが、雪平の家って金持ちだったんだな。それでいつも貴賓があるような雰囲気があったわけだ……。
あとは俺だけに対する毒舌だけを直してくれれば、ほぼ完璧なお嬢様なんだけどな。
そんなことを思いつつ、少し冷えてきた帰路を歩いて桜が夕食を作って待っているであろう自宅へと向かった。
【あとがき】
あまあま系にしたかったのにいっつもこういう流れを入れてしまう……😭
それにしても……私の家では四代目となる中古のMacBook Pro……。タッチバーはいいとしても拡張ポートがtype-Cしかないのは痛いっすね…。
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