第41話 学力検査当日③

 約五時間にも及ぶ学力検査が終わり、俺と雪平は会議室から出る。

 夕方六時近くにもなると、終業時刻も過ぎているということもあってか、昼とは違い、静寂とした空気が流れていた。

 会議室の廊下から見る限りでは、残業をしている職員の数も数える程度しかいない。

 窓から見える外は夏ということもあり、まだ日はあるものの、だいぶ傾き始めている。


「それじゃあ、学校まで送ってもらえるかしら?」

「……なんでだよ」

「なんでって、こんな時間に美少女を一人で歩かせるのは危ないでしょ? もし私の身に何か起こった場合は……和樹くんにも責任を取ってもらうことになるけど?」

「意味がわからねぇ……。なんで俺まで……まぁいい。どうせ帰宅途中だし……」


 ようやく雪平から開放されると思っていたのに……つくづくついてねぇ。


「あれ? もしかして琴音ちゃん?」


 帰ろうとした矢先、後方からいきなり声をかけられ、隣にいた雪平は咄嗟的に振り向いてしまう。


「あ、あなたは……」


 少し取り乱しがちな様子につい気になって、俺も後ろの方へと振り返る。

 そこにいたのは市内でも超有名な進学校の制服を来た爽やかなイケメンだった。

 ニコッと愛想にいい微笑みを向けながら、そのイケメンはこちらに近づいてくる。


「……知り合いか?」

「ええ……」


 雪平は節目がちにそう頷く。


「久しぶりだね。会うのは春休み以来かな?」

「そうね。あなたも受けていたのね」


 雪平の声はいつもの威勢はなく、どこか弱々しく思えた。


「まぁね。親から受けろって言われたからさ……って、あ!? 連れがいたんだね。これは失礼しちゃったなぁ」


 と、今気づきましたみたいな感じで、はははと陽気に笑ってみせるイケメンくん。

 ––––俺って、そんなに存在感薄かったかな?


「初めまして。僕は諸星迅もろぼしじんと言います。今後ともよろしくね」


 見ただけでわかる。こいつ絶対にクラスでは中心人物だ。

 少し話しただけで格の違いを思い知らされ、俺は思わず愛想笑いを浮かべてしまう。


「ど、どうも。工藤和樹です……こちらこそよろしく」

「うん、和樹だね。覚えておくよ」


 初対面から下の名前でだし、しかも呼び捨て……。

 これがクラスの頂点に立つ者の余裕というものなのか……。

 諸星はひとしきり自己紹介を終えたところで、手首に身につけていたスマートウォッチに視線を落とす。


「あ、もう時間だ……。琴音と久しぶりに会えてよかったよ。もう少し話したかったけど、また今度ね。あ、それと和樹ともね。それじゃあ!」


 諸星は俺たちに手を振りながら、颯爽と会議室前から消えてしまった。


「俺たちも––––」


 帰るかと言いかけた時、先ほどから口を閉ざし、下を向いていた雪平がシャツの袖をきゅっと摘む。

 俺は雪平の変わりようにただじっと見つめることしかできなかった。


「……帰りながらでいい。少し話せないかしら……?」


 その声は何かに怯えているようにも聞こえた。


「ああ……」


 別に憎まれ口ばかり叩く雪平を助けたいとかはこれっぽっちもない。

 だけど、話を聞いてやることくらいはいいんじゃないだろうか?

 どんな問題を抱えているのかは知らないが、確実に厄介なものが雪平にのしかかっているということだけは現状としてなんとなくではあるが、察しはついたしな。


【あとがき】

イケメンって存在だけでチートだと思っているのって私だけ???

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