第38話 夜這い

 勉強もひと段落し、寝具で薄い布を被りながら休んでいると、何か柔らかいものに触れてしまった。

 ふにふにと吸いつくような柔らかさと弾力。半球のような形をしていて、ずっと揉んでいたい……そんな気にすらさせてしまう。

 それに不思議と暖かくて、甘い匂いがする。


「……んあっ♡」


 段々と揉むたびに息遣いが荒くなり、喘ぎ声が聞こえてくる……


「って、お前何してんだよ?!」


 俺は被っていた布を跳ね除けた。

 そして、部屋の明かりを点けに行く。

 すると、ベッドの上には下着姿の桜がいた。


「急に明かりを点けるなんて……えっち! 変態!」


 桜は俺が跳ね除けたタオルケットを体に巻く。


「それお前が言えることじゃねーだろ! 何勝手に部屋の中に忍び込んでんだよ!」

「いいじゃん! お兄ちゃん溜まってるでしょ? だからそれを発散させてあげようと――」

「別に溜まってねーよ!」

「……え? じゃあ、お兄ちゃん――」

「言っとくけど彼女もいない」

「じゃあ、オナニー?」

「うっせぇ! いいから出てけ!」

「……ちぇっ。今日こそ桜の魅力で堕とそう思ったのに……」


 桜はぶつぶつ言いつつ、ベッドから降りると、タオルケットに八つ当たりでもするかのように床へと叩きつけた。


「お兄ちゃん……あの時、“桜がいい”って言ったじゃん……」

「……は?」


 いつの話だよ。

 まったく覚えていないんだが……?


「今日のところは仕方なく引き下がってあげる! おやすみっ!」


 桜は若干半ギレな感じでドアを思いっきり閉めた。

 ――なんなんだよアイツ……。

 最近は妙に大人しいなと思っていたのによ。

 俺は床に落ちていたタオルケットを手に取ると、部屋に鍵をかけ、次こそベッドに横たわった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る