第37話

 家に帰宅した頃にはすでに午後六時半を過ぎていた。

 それまでの間ずっとホチキスを留める作業を繰り返していたため、指が地味に痛い。

 俺はそのまま自室へと向かうと、カバンだけを置いて、すぐさま夕食を摂る。

 そして、五分ほどで終わらせた後、入浴を済まして、七時過ぎには自室へと篭った。

 明日が学力検査本番なだけにかなり追い込まないとマズい状況だ。

 あのクソ担任のせいで部活動時間を丸々潰してしまったしな。

 これから勉強したとして……できたとしても十二時が限界だろうか?

 あまり根気強く追い込んでしまうと、逆に寝不足とかで記憶が定着しないと前に何かで聞いたことがあったし、睡眠はとっておいたほうがいい。

 約五時間……テスト対象は数学、現代文、社会、理科、英語の五教科だから一科目あたり一時間を目安に勉強した方がいいだろうか……。

 範囲は一年から二年の一学期に習ったところまでとなっているため、かなり広い。

 ――よしっ。やるか!

 どの道、推薦枠が取れなかったとしてもセンター試験でそれくらいのテストは受ける。

 俺は椅子に座ると、机の上にまっさらなノートを広げ、さっそく勉強に取り掛かった。



 約三時間後。

 夜もだいぶ深くなり始めた頃。

 コンコン。

 ふと、ドアからノック音が響いた。


「お兄ちゃん。お夜食作ったけど……」


 そう言いながら、ドアを遠慮がちに開く桜。


「おっ? ありがとな! ちょうど腹が減ってたところだった」

「そう? なら、よかった!」


 桜は俺の元まで近づくと、夜食であるおにぎりが三つ乗った皿を机の端へと置く。


「じゃあ、お兄ちゃん。頑張ってね!」

「おう」


 いつもなら長居しようとする桜も今回ばかりは気を利かせてくれたのだろう。

 桜はそのまま何も話すことなく、俺の部屋を出ようとする。


「あ、お兄ちゃん」


 出る間際、何かを思い出したかのようにこちらへと振り返る桜。


「ん?」

「抜きたくなったらいつでも桜に言ってね! 準備できてるから……グヘヘ♡」

「アホかッ! はよ出ろッ!」

「もぉーそんなに照れちゃって♡」

「誰が照れるかッ!」


 桜は「じゃあまたね♡」と謎の言い分を残したところで俺の部屋からやっと出て行った。

 最近では家事を積極的にしてくれているあたり、少しは見直していたところだったんだけど……やっぱりあいつはあいつだよなぁ。

 実際に家事をやってくれているのもおそらく「お兄ちゃんの妻っていう感じがするから!」とかそんな下心全開な考えなんだろう。

 ……ったく。

 今度ひと言でも変なことを口にしたら唇を縫い合わせてやろうか。

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