第32話 見知らぬ電話番号
昼食を終え、約一時間。
自室で勉強に集中している最中の出来事だった。
いきなり机の端に置いていたスマホが珍しく鳴り響く。
久しぶりのノーマル着信音。
桜の場合はほとんどのやりとりをラインでしか行っていないため、通常の通話を使うということはおそらくない。
と、なると……親父か母さんか?
そう思い、画面を確認すると……まったく知らない番号だった。
「……」
きっと間違い電話に違いない。
俺はスマホの画面をそっと閉じ、勉強の続きへ戻ることにした。
――“知らない番号には出てはいけない。”
小さい頃からよく親に言われてきた言葉だ。たぶん他の人も似たようなことを言われたことがあるんじゃないだろうか?
……まぁ、俺も見た目でわかる通り小さくないし、高校生だからその掟みたいなものはもう守らなくてもいいと思うんだけどな。
どのくらいかして着信音が鳴り止み、再び静寂――
(プルルルル……)
またしてもスマホが震え出す。
画面には先ほどと同様の知らない番号。
俺は出るか無視するか、考えたが、二回も続けてかけてくるということはそれなりに休養なのだろう。
例え、間違い電話だったとしても出てあげた方が相手のためにもなるし、俺のためにもなる。
渋々スマホを手に取り、通話ボタンを押す。
「もしもし……」
『やっと出たわね』
――なんか聞き覚えのあるような声が……。
とりあえず相手の名前を伺ってみるか。
「あの……どちら様でしょうか?」
『どちら様って、私だけど?』
私? だから誰だよ!
一人称的に考えて、まず桜はありえないし、声的にも母さんにしては若すぎるし……あはは。ぼっちが故に選択肢が狭過ぎて泣けてくるよ……。
とにかくこれは……新手の「ワタシワタシ詐欺」なのかもしれない。本当にあるのか知らんけど。
「たぶん間違い電話だと思います。では、失礼します」
俺は一方的にそう伝えると、相手の言い分も聞かずに通話を切った。
こういうのはすぐに通話を切った方がいい。長く話す必要もないしな。
(プルルルル……)
通話を切ってから一秒で足らずで同じ番号から着信が入った。
「……」
いや、やはり一方的に切るのはまだ早かったような気がする。
そもそも相手の要件を俺は聞いていなかったし。
ひとまず通話ボタンを再度押す。
「もしもし……」
『なぜ切ったのかしら?』
通話越しからでもわかるほど冷たい声音……。
――この感じ……もしかして?!
「……雪平、か?」
『ええ、そうだけど? というか、気づかなかったの?』
「気づくわけねーだろ! てか、なんでお前が俺の電話番号を知ってんだよ!?」
雪平に電話番号を過去に教えたことはない。
それなのになぜ……?
『部活の時、和樹くんがトイレに行っている間、少しだけスマホを確認させてもらったのよ』
「あ〜なるほ――じゃねえ! 何させてもらったって許可が下りたみたいな言い方してんだよ! 誰の許可だ! ああ!?」
『私の許可に決まってるじゃない』
「“当たり前でしょ?” みたいな感じで言うな! 自己中か!」
なんだろう……。
たった数分程度の会話だというのに結構な疲労感……。
「……で、電話をかけてきたってことは単に声が聞きたかったっていうわけではないんだろ?」
『そんな和樹くんのゲスボを聞くためだけに』
嘲笑われた。
俺はそれに対し、当然イラッとくるのだが……抑えろ俺! ここでどうこう言ったところでどうにもならない。
ひと通り笑われたところで雪平はうんと咳払いをする。
『今から会えるかしら?』
「……なんで?」
『ちょっと確認したいことがあるのよ。近くにたしか……マグロナルドあったわよね?』
「ああ……じゃあ、マッグに行けばいいんだな?」
正直、行きたくないけど、その“確認したいこと”が気になる。
『ええ、今すぐに来てちょうだい。待ってるから』
雪平はそれだけを伝えると、先ほどの仕返しと言わんばかりに通話を切られてしまった。
今日は雪平なしで勉強三昧だとばかり思っていたのに……今から会うという事実だけでも胃がキリキリとする。
はぁ……。
でも、約束をしてしまった以上、破るわけにはいかないし……行くか。
俺はさっそく出かける準備をすると、その五分後に家を出た。
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