第28話 修羅場
スズちゃんと話を終え、部室の方へ来たんだが……雪平は俺“たち”の方を見るなり、形のいい眉をひくつかせていた。
こめかみにはおそらく幻覚だと思うのだが、青筋も立っている。
「遅いかと思いきや……まさか涼宮さんと逢い引きしていたとはね。驚いたわ」
「あ、逢い引きなんてしてねーよ!」
「じゃあ、その腕は何? なんであなたたち“腕を組んでるの?”」
「こ、これは違うんだ! スズちゃ――じゃなくて、涼宮が勝手にしているだけで!」
「と言っている割にはまんざらでもないような顔しているのだけど?」
「え、ウソ?!」
俺がそんな顔するはずがない!
たしかに異性から近寄られるのは男として嬉しいし、銀髪碧眼美少女ならなおさらだ。
けど、これは自信をもって言える。
――涼宮のことは可愛いと思っている。だが、俺の中ではまだ“幼なじみ”という概念しかない。
異性として見ていないわけではないにしろ、約十年ぶりの再会を果たした今だからこそなんだと思う。
将来的に涼宮のことをどう想うのかはわからんけどな。
「さっきから気になってたんだけど、君はかーくんの何?」
と、それまで俺と雪平のやり取りを隣で黙って聞いていたスズちゃんが口を開いた。
相変わらずのジト目なのだが、その瞳には警戒心が宿っているようにも見える。
それに対し、雪平は座っていた席から腰を上げると、スズちゃんの前へ移動する。
「私はこのボランティア部の部長よ? 部員のことを心配するのは部長として当たり前だと思うのだけど?」
あんた部長だったんスか……。
初耳なのだが、雪平が俺のことを心配している? 耳くそでも詰まっているのだろうか? 明日、時間が取れたら耳鼻科の予約でもしとこ。
「そう? いくら部長だからと言って、少し過剰に思うんだけど……もしかして君もかーくん狙い?」
その瞬間、雪平の額に無数の青筋が立ったように見えた……うん、幻覚、だよね?
実際には目に見えないけどなんと言うか……ものすごい威圧感が生まれ、俺たちに襲いかかってくる。
「私がなぜ和樹くんを……?」
そこまで怒る必要あるかな!?
ただ疑問を投げかけられただけだよ? え? もしかすると、俺だからそんなに怒り心頭になっている、とか?
もし、そうだったら死にたいレベルで傷つくんだけど……。
「違うの? なら私とかーくんの邪魔をしないでくれる?」
「ちょ、涼宮もそれくらいに……ッ?!」
「……」
油に水というのはこういうことなのだろう。
料理をする人とかは熱せられた油の中に水を入れると、どうなるかよくわかっていると思うのだが、例え少量だったとしても水が瞬時に蒸発してしまう勢いで油も跳ねてしまう。
なら、大量に入れた場合はどうなってしまうのだろうか……?
その答えは俺にもわからない。実際に油の中に水が入ったとしても水滴程度だし、大量に入る事態なんてそうそうないだろう。
だが、きっと目の前に状況に近いかもしれない。
爆発寸前まで陥ってしまった雪平をどう沈めるか……。
もはや宥めるなどをしたところで手遅れだ。
「かーずーきーくーん」
「は、はい……」
雪平の凍てつく声音と視線がか弱い俺に襲いかかる。
「後で覚えときなさい」
「……」
――殺される……。
生物の本能というものなのだろうか?
直感的にそう思った瞬間、体が急に震えだし、冷や汗が止まらない。
その俺の様子に異変を感じたのか、未だに腕を組んでいるスズちゃんがくいっと腕を引っ張る。
「かーくんさ私が守るから安心して。ね?」
「……」
俺の幼なじみが天使すぎるっ!
が、そうなってしまえば、また修羅場に……。
現状として幸いな事に桜が絡んできていないからまだマシだ。
けれども、いつかは……ね?
ハハ、ハハハ……。
明日から学校休もうかな……。
いや、実際には特別推薦枠もあるから休めないのだけど。
そう考えると……絶望してしまうよね。実質、逃げ道がないんだからさ。
【あとがき】
ここで告知するのもアレですが、明日『塩対応』の方を更新します。
今はいろいろと手がかかって……こちらの作品で精一杯ッス。
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