第27話 新事実②

「あ、あの……涼宮さん? 話があるんだけど、ちょっといいかな……?」


 終礼が終わった直後。

 俺は意を決する思いで、隣の席で帰りの準備を進めている涼宮さんに声をかけてみた。

 すると、涼宮さんはぴたっと手を止め、俺の方に顔ごと視線を向ける。


「……いいよ。私もちょうど話があったから」

「じゃ、じゃあ……今から校舎の屋上に行かない? ちょうど雨も降ってないしさ」


 教室の窓から外を眺めると、どんよりとした分厚い雲はあるものの、雨は降っていないように見える。

 校舎の屋上は滅多に人が来ない上に、出入り口は一つしかないため、どこからか話を聞かれてしまうという恐れもない。話す場所としてはかなり最適な所だろう。

 俺は帰りの準備をそっちのけでさっそく席を立つと、それに釣られるかのように涼宮さんも同時に立ち上がる。

 教室前の廊下に目を向けてみれば、転入してきたばかりの銀髪碧眼美少女をひと目見ようと、学年問わず、もうすでに群がっていた。

 こんな状況下で教室を出るのはあまりにも危険な気もしなくはないが、涼宮さんもきっと早く話を終わらせて家に帰りたいだろう。

 ここは少々強引ではあったが、群がるゴミをかき分けながら、なんとか廊下へ出たところで涼宮さんの手を握る。


「ごめん! 今はちょっと我慢してくれないか?」

「うん……」


 涼宮さんの頬が若干赤くなっているように見えたが、これは多分群がるゴミのせいだと思う。かなり満員電車時並みにぎゅうぎゅうだから体温による熱気がこもっているのだろう。

 まぁそのおかげで廊下に群がっていたゴミ共は追いかけようにもくんずほぐれつで結果的に屋上まで逃げ切ることができた。


「大丈夫だった?」


 俺は握っていた手を離すと、二、三歩くらい距離を取って向かい合う。

 涼宮さんは先ほど俺が握っていた手をどこか名残惜しそうな目で見ながらも、小さく首を縦に振る。

 念の為、雲の様子を確認するため、上空を仰ぎ見ると……いつ雨が降り出してもおかしくない様子だった。

 これだと早めに本題を突きつけて、終わらせた方がよさそうだな……。


「涼宮さん。話があるって言うの――」

「覚えてない?」

「……え?」


 話している最中に遮られたかと思いきや、涼宮さんの口から出てきた言葉は予想外のものだった。

 それに対し、俺はどのくらいか固まってしまう。

 ――覚えてないって……どういうことだ?

 やはり俺と涼宮さんはどこかで出会ったことがあるというのだろうか?

 涼宮さんはジト目でじ〜っと見つめたまま、俺の様子を窺っているようにも見える。

 でも……俺の記憶上では全然出て来ない。

 銀髪碧眼という目立つポイントがあるというのに……だ。

 しばらくして、涼宮さんは諦めたようなため息をつく。


「君は小さい頃、保育園に通ってた?」

「通ってたけど……」


 ――一体なんの質問なんだ?


「白鳥保育園?」

「まぁ……はい」


 ――なんで俺の通ってた保育園を知ってるんだろう……?

 じわじわと上手く説明ができないような恐怖にも似たものが湧いてきている中で、次の発言で涼宮が誰なのかを知ることになる。


「やっぱり。“かーくん”……」

「か、かーくん?」

「そう。小さい頃の君のあだ名。もちろんこれは覚えてたよね?」

「あ、ああ……たしかに“かーくん”とは呼ばれてたけど、このあだ名を使ってたのは……って、まさか?!」


 その瞬間、俺の中に一人の少女が浮かび上がった。

 髪色が黒から銀に変わっていたから気が付かなかったけど、小さい頃、唯一の友だちにして、よく遊んでいた女の子。

 小学校へ進学するとともにこの街から引っ越してしまい、それ以来会うこともなく、忘れかけていた……


「スズちゃん……?」

「やっと思い出してくれた」


 スズちゃんはそう言うと、俺の胸の中に顔を埋め、若干強くぎゅっと抱きしめる。


「ずっと会いたかった……」


 甘えるような声と同時にスズちゃんは顔を上げる。

 抱きつかれているということもあって、非常に距離は近く、スズちゃんの整った顔がよく見える。

 銀髪でサラサラとした髪。

 長くて綺麗なまつ毛。

 吸い込まれそうなジトとした瞳には涙が溜まっており、今にも溢れそうだ。


「かーくん……」

「ん?」

「卒園式前に約束したこと覚えてる?」


 そう聞かれ、俺は記憶の中を探ってみる。


「……悪い。まったく覚えてない」

「本当に? “大きくなったら結婚しようね“っていう約束なんだけど……」

「そんな約束してたのか……」


 高校生となった今だからこそ微笑ましく思える。


「ねぇかーくん」

「ん?」

「“挙式”いつ挙げようか?」

「そうだ――って、は?!」


 俺は今なお抱きついているスズちゃんを無理やり引き剥がす。

 ついつい場の雰囲気で流されそうになったけど、いきなり話が飛躍しすぎじゃないか?


「ごめん。婚姻届の記入・提出が先だったね」

「いや、そういうことじゃねえ!」

「? じゃあ、どういうこと?」

「どういうことって……なんでいきなりけ、けけけ結婚の話になるんだよ!」

「だって、約束したから……」

「約束って、あれは違うだろ!? 小さい頃にした約束なんて、本気にする方がおかしい!?」


 しかも口約束だ。

 ひとまず結婚という話は白紙に……


「いや。かーくんと結婚する……というか、約束は守って」

「だからそれは口約束だし、小さい頃のやつなんてもう時効だろ! 十年も経ってるんだぞ?」

「そんなの関係ねぇ! そんなの関係ねぇ!」

「真顔でやるのやめてくれる!?」


 たしかにある芸人がそんなネタをやって一時期ブレイクしてたけども! ……そんなの関係大ありなんだよ。

 それにしても転入生がまさかのスズちゃんだったとは……道理でじ〜っと見つめてくるわけだ。

 と、小雨が降り出し始め、俺とスズちゃんはすぐさま屋根が付いている昇降口前へと移動する。


「かーくんが十八歳になるまで私待ってるね?」

「……」


 もう何を待っているのかについては、聞かないことにした。

 スズちゃん……容姿端麗で見た目は覇気がなく、眠たそうにしているけど、別に嫌いと言うわけではない。

 ただ……結婚するにしてもその前段階である交際期間を経てからの方が俺的にはいいと思う。


【あとがき】

風邪引いたみたいで昨日から体調が悪いです…。

この時期は体調を非常に崩しやすいですし、コロナもありますので皆さんもお体の方はお気をつけて……_(┐「ε:)_

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