第20話 梅雨
外の風景は陽気な五月から憂鬱な六月へと移り変わり、連日のように雨が降りしきっている。
そんな中で今日も授業を終えた俺は放課後、特別棟二階にあるボランティア部の部室に姿を置いていた。
創部から約半月ほど経過したのだが、未だにボランティアなどはしておらず、かといって中野先生の手伝いもほとんどしていない。ただ名前だけの部活になっている。
というのも今の時期はここら辺一帯でボランティア活動などは行われておらず、自分たちで町内のゴミ拾いなどをするにしてもこの悪天候。それでもって中野先生からも特に手伝うような要件は来ていないため、ここ数日はずっと部室にて自学自習をしているのだが……何ともやりづらい。
普段は一人で勉強をしているということもあってなのか、長机の端っこを尻目で確認すると、同じくして雪平が何かの参考書と睨めっこしている。
正直、帰りたい一心でいっぱいなのだが、中野先生からは何か頼みたいことが出てくるかもしれないからということで部活動終了時刻まで残っておくようにと釘を刺されてしまっているし……はぁ。
まぁだからといって別に全然はかどっていないというわけではないからある程度は我慢できるけど……限界が来た時は一旦気分転換に席を外そう。
そう思いつつ、俺は再び勉強に集中するのだった。
相変わらず外は雨模様。
部室内は蛍光灯の淡い光が全体に広がりながら、黒板中央のちょうど真上に取り付けられたアナログ時計の針音だけがチクタクと鳴り響いている。
ふと、隣の方から強い視線を感じ、俺は思わずそちらの方に尻目を向けてしまう。
「……なんだよ」
雪平が俺のことをじっと見つめていた。
まるで固まっているかのようで微動だにしない。
しばらくの間、見つめ合いが続く。
どことない緊張感が全身に駆け巡りながらも雪平はようやく反応を見せる。
「喉が渇いたからお茶を買ってきてくれるかしら?」
「どんだけ溜めて言うんだよ……。てか、俺をパシリにするな」
「いいじゃない。早く買ってきなさい」
「命令すんな。自分で行け」
「嫌よ。私がもしここを離れた場合、その隙を見て、あなたが変なことをするかもしれないわ」
「しねーよ! というか、変なことってなんだよ」
「私が愛用している教材類を舐め回したり、シャーペンとかを盗んで、それを家でおかずにしたり……するかもしれないわ!」
途端、雪平は机上に置いてあった教材類を全て庇うような仕草を取る。
「俺をなんだと思ってんだよ!?」
「変態」
「ちげーよ! 誰が変態だ!」
全くもっての言いがかりだ。こんなに紳士だというのに……。
俺は大きなため息を吐きつつ、重たい腰を上げる。
「あとで金、ちゃんと渡せよ?」
「わかってるわよそれくらい」
机の傍に置いてあったカバンの中から財布を取り出すと、俺は部室を出て、自販機がある中庭へと向かった。
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