第16話 部室

 放課後を迎え、俺と雪平はクラスの教室がある校舎とは別に音楽室や科学室などがある特別棟二階の空き教室にいた。

 中野先生から事前にここが部室だと言われ、来てみたんだが……中は長年使われていなかったのか、埃っぽく、ところどころ蜘蛛の巣が貼ってある。

 一応明かりは点くみたいなのだが、物置代わりとして放置されていたのか、黒板側から見て、後方には使用されなくなった教材や机などが山積みにされていた。

 正直、この状態ではとてもじゃないが長くはいられない。

 後方にあるゴミの山はともかくとして、ひとまずは人間が長時間いても大丈夫なくらいにはしたい。

 さっそく俺と雪平は協力して、室内にある全ての窓を開け放つ。

 そして掃除を進めていくこと約一時間。


「だいぶマシになったな」

「そうね。これくらいなら問題ないわ」


 荒れ狂った教室は見違えるほど綺麗になった。

 とはいえ、できる範囲しかやっていないのだが、それでもいいだろう。

 床はほうきとモップのおかげもあり、くすんだ汚れはなく、窓も拭いたため、ピカピカ。蜘蛛の巣ももちろん除去した。


「おお〜、結構綺麗になったじゃないか」


 と、いきなり後方から第三者の声がして俺たちはほぼ同時に振り返る。

 そこにはノートPCを二台脇腹に抱え込んだ中野先生の姿があった。


「いきなり声を出さないでもらえますか?」


 雪平がトゲの籠った声でそう注意すると、中野先生は笑って誤魔化そうとする。


「まぁいいじゃないか。ところで君たち今から一階の方まで降りてくれないか? 新しく届いたテーブルがあるからそれを運んで欲しい」

「……和樹くん一人じゃダメなんでしょうか?」

「おい」

「別に構わないが……」

「いやいや、大きさにもよりますけど……」

「かーなーりデカい。が、工藤は男だから大丈夫か」

「……」


 俺、これまで帰宅部だったんですけど?

 家に帰宅すれば、ぐーたらばっかりしてたし、桜と二人暮らしを始めてからようやく家事をするようになった者ですが?

 そんな奴にかーなーりデカいテーブルを運べると本気で思っているのだろうか。あはは。

 自慢ではないが、腕相撲で桜に一回負けたことがあるくらいへなちょこだ。

 けど……現状を見る限りでは雪平はなんとしても動こうとはしないだろう。

 つまり、消去法的に考えて、持ち運べるのは俺しかいない……。


「……中野先生。和樹くんが私のことを卑猥に満ちた目で見てくるのですが……」


 雪平は自分の体を庇うようにして抱きしめる。


「いや違う誤解だ! てか、平然と中野先生にチクってんじゃねーよ!」

「ほほぅ……それは本当か?」

「はい! 今も見て……きゃっ」


 あの雪平さん? 最後の悲鳴が完全に棒読みだったのですが?

 一方でロリ巨乳……じゃなくて中野先生は拳を作りながらポキポキと指を鳴らしている。


「私は教師だ。生徒を正しい道へと導かなければならない……わかるな?」

「わかるか!? 俺、本当にそうじゃなくて誤解――ッ?!」


 中野先生の鋭いアッパーがみぞおちにクリティカルヒットした。

 俺はあまりの痛みにその場へと崩れ落ちてしまう。


「今度卑猥な行動をしたらこの拳がまた炸裂することになるからな」

「だ、だから……して、ないですって……」

「ガァデムッ!!!」


 中野先生はそう叫ぶとノートPCを雪平に手渡し、部室を出て行ってしまった。

 ――どこぞのプロレスラーだよ……。

 そう思いつつ、俺は痛みが引くまでの間、ずっとうずくまっていた。

 雪平め……お前覚えとけよ! 絶対に今後仕返ししてやるかんな! 怒ったかんな! 許さないかんな! 橋――おっと。ようやく痛みも引いたし、テーブル取りに行くか……。

 俺はその場から立ち上がると、雪平を睨みつける。


「ほんと性格ど最悪だな」

「あなたが私の体をジロジロと見てたからじゃない」

「あれは誤解だ。そういう目で見てないし、そもそもジロジロとまではいってない」

「あらそうだったの?」


 雪平は「初めて知ったわ」みたいな表情をする。


「だからそう言ってるじゃん……」


 なんなんだよこいつ。クソッ!

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