第14話 夢であってほしい…

 制服に着替えてリビングの方へと向かうと、もうすでに両親の姿はなく、ダイニングテーブルには母さんが書いたらしい一通の置き手紙が朝食とともに添えられていた。

 まだ午前六時半だというのに結構早く家を出たんだなぁ……。

 キッチンの方に作り置きされていた味噌汁の入った鍋はすでに生ぬるい。

 置き手紙には俺たちの体調を気遣う言葉と作り置きした料理を温めてから食べるようにといった文言が書かれていた。

 とりあえず味噌汁を温め直し、朝食の準備に取り掛かる。

 しばらくして制服に着替え、身支度を済ませた桜がリビングに現れた。


「あれ? パパとママは?」

「先に出たらしい」


 俺はそう言いつつ、温め直した味噌汁と炊き上がったばかりのご飯をテーブルの上に運ぶ。

 桜は「ふーん。そっか」とあまり気にした風もなく、席へとつく。


「ねぇ、お兄ちゃん」

「ん?」

「今日からさ、一緒に学校へ行こうよ」

「……俺は別に構わんが、桜はいいのか? たしか……お兄ちゃん嫌いキャラで通してなかったけ?」

「うん、まぁそれはそうなんだけど……お兄ちゃんはお兄ちゃんでも実のお兄ちゃんじゃなければその設定は無効かなって思ってね。みんなになんか言われた時はそんな感じで説明するよ。血の繋がった兄じゃなくて、義兄だったって」

「それでみんなが納得すんのかよ……」


 普通はしないように思えるし、なんなら兄のことを一人の男として見ていることに気持ち悪がられたりするかもしれない。

 そうなってしまえば、桜は俺みたいに……


「大丈夫だよ。話せばわかってくれる子たちだから」

「楽観視しすぎだろ……」


 まぁ桜がそう言うのならそれでいいと思うんだけどさ……。

 それにしても今日はあまりにも早起きしすぎた。

 いつもより三十分ほど早く起きた上に朝食も母さんが作ってくれたということもあって、時間が多少余ってしまう。

 朝早くに学校へ行くのもなんか嫌だし……その分ゆっくりと朝食を摂ればいいか。



 それからして登校時間になり、桜と一緒に家を出たんだが……


「お兄ちゃんと一緒に登校……えへへ♡」


 桜はいつにも増して上機嫌。

 俺の腕を自分の胸に押し付けるかのように強く抱きしめ、若干スキップまでしちゃっている。

 正直……悪い気はしないし、そんな桜が可愛いかと問われると、まぁイエスなんだが……少しは周りの目を気にしろ。

 これまでは実の兄妹として振る舞っていた分、周りの人たちも自然とそういう風に見ている。

 そのため、おそらくだが俺たちの様子を見て、気持ち悪いとか実の兄妹で何してんのとか様々な感情があると思う。

 あー……。

 そうだよなぁ。このことも説明しないといけないよなぁ……。

 でも俺、コミュ障だし、人と話すとかマジ無理だし……いずれ自然に本当のことが広まっていくからいいでしょ。桜も仲のいい子たちに説明するとか言ってたしな。そこからどんどんと広がっていくことを願うしかない。


「お兄ちゃん♪」

「ん?」

「お兄ちゃんと登校できるなんて夢みたいです♪」

「……そうだな。本当に夢だったらいいんだけどな」

「? それってどういう……」

「いや、こっちの話だ。別に桜と一緒に登校することが嫌だと言っているわけじゃないから気にするな」


 桜はきょとんとした表情を浮かべつつもすぐに上機嫌へと戻る。

 二人暮らしを始めてからまだ一ヶ月とちょっとしか経っていないというのにいろいろなことが起こったなぁ……。

 これから先も予想外なことが起きるのだろうか?

 今年は何かと波乱が待っているような気がしてならない……。


【あとがき】

もう一度、高校生からやり直したいッ!!!

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