第12話 新事実

 家に帰宅すると、玄関に見覚えのある靴が二つ並んでいた。

 俺はそのままリビングの方へと向かうと、案の定親父たちが帰ってきており、ダイニングテーブルで桜と楽しそうに何かを話し、母さんはキッチンで料理をしている。


「よぉ! 我が息子、元気か?」

「ああ、おかげさまで。てか、親父会社はどうしたんだよ。転勤だったろ?」

「あー、今日たまたまこっちの方に用事があってな? それで一日だけ帰ることにしたんだ。なぁ? 母さん」


 キッチンの方で何かをフライパンで炒めている母さんに親父は話を振る。

 すると、母さんはこちらに視線を向けると「ええ」と優しい微笑みを向けた。

 なんだろうなぁ……。

 桜と二人暮らしが始まって一ヶ月ちょっととはいえ、この家族でいる空間がめちゃくちゃ懐かしいというか……やっぱり家族っていいなぁと正直思った。

 俺はすぐに自室へと戻り、荷物を置いた後、部屋着に着替えてから再びリビングの方へと戻る。

 そして桜の隣、親父の目の前の席に腰を落ち着かせたところでちょうど出来上がった料理が母さんの手によって運ばれてきた。


「おっ?! 美味しそうだなぁ!」


 相変わらずの陽気な親父。

 今日の晩ご飯はチンジャオロースに羽付きのパリパリとした餃子など中華系だ。

 母さんが席に着いたところでいただいますをしてからさっそく久しぶりの母の味を堪能する。

 それからして親父は帰ってくる途中にでも買ってきたのか、ビールを飲み始めた。

 だんだんと酔いが回り始めたのか、顔は赤くなり、呂律も怪しい。

 会話の内容も最初の方こそは俺たちの学校について、あれこれと聞いていたのだが、次第に会社の愚痴へとすり替わっている。


「あのォクソ上司がよぉ! 仕事もロクにしてねぇーのにえらそーに……ヒック」

「はいはい。あなた、少しお水飲んでください」


 社会で働くというのも大変なんだなぁとつくづく親父の姿を見ては思い知らされる。

 どれだけ働いて会社に貢献したとしても、上司がクソみたいな人間だったらその功績は報われない……つまり上司の手柄にされてしまうということも話で聞いたことがあるし、社会は理不尽なことだらけなんだと思う。

 思うというのは、まだ俺自身が高校生で実際の社会を知らないからこそ憶測だけで言っているだけなんだけど……でも、周りの大人を見ればわかるだろう。毎日が楽しいという人はそこまで多くはない。

 そんな荒れ狂った親父を目の前にして、食事を終えた俺は席を立つ。


「あ、そういや……和樹ぃ。桜たんとはどこまでいったんダァ? 二人暮らしなんだから……ヒック。結構はっちゃけちゃってんじゃないかぁ?」

「何を言ってんだよ。酔いすぎにも程があるだろ……」


 俺と桜は実の兄弟だぞ? 実の親が何を口にしてんだよ……。


「んあ? お前たちに話してなかったっけ?」


 親父はそう言って、隣にいる母さんの方に視線を向ける。

 母さんは顎に指を当てると、考える仕草をとった。


「そうね……言われてみれば、そもそも話す機会なんてなかったから……」

「そうか……なら、この際話すか!」


 そう言うと、親父は手に持っていた缶ビールをタンッとテーブルの上に勢いよく置いた。

 なんか妙な空気が流れている中で俺は一旦席に戻る。


「俺とママは……再婚なんだ」

「「……え?」」


 俺と桜の声が見事に重なった。


「さ、再婚って……?」


 桜が手に持っていた箸を皿の上に置く。


「そのまんまの意味だ。俺の連れ子が和樹でママの連れ子が桜たん……要するにお前たちは血の繋がった実の兄妹じゃないということだ」

「……え?! じゃあ……え?」


 やばい。頭が混乱してきた。

 俺は一度深呼吸をして頭の中を改めて整理する。

 俺と桜が実の兄妹ではなかったという新事実……。

 ふと、隣の桜が気になり、尻目で様子を確認すると……口をわなわなさせながらどことなく嬉しそうな表情を浮かべていた。

 まぁそうだよな。俺のことを男として見ていた桜からすれば、実の兄妹でないことは願ったり叶ったり。義理の兄妹であろうと、現時点での日本の法律上では結婚が可能と定められているし……こればかりは俺もとやかくはいえない。

 とはいえ、いきなり実の妹だったと思い込んでいた妹を“一人の女性”として見るのはやはり抵抗があるというか……これまでがこれまでだった分、俺にはちょっと難しい。


「じゃ、じゃあママ。桜とお兄ちゃんはけ、けけけ結婚できるの?」


 桜の顔がもう説明が不可能なくらいやばいことになっていた。


「ええ、大丈夫よ? 桜にその気があるのならいつでも和樹を襲うといいわ」

「え? な、何言ってんの母さん……」


 もはや親公認!

 え? 明日から俺どうすればいいの?

 ちょっとわからなくなってきたよ……。


【あとがき】

ワタシモ カワイイギマイ ホシカッタ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る