第9話 特別推薦枠

 放課後。

 俺はなぜか職員室に呼び出されていた。

 目の前にはサラサラな黒髪のロングに顔は整っていて、胸はスーツのシャツがはちきれんばかりにデカい。見た目は完全にロリなのだが、年齢はもうすぐで二十七と独身彼氏なしアラサーな担任、中野優姫先生がデスクチェアに座っていた。

 そして、俺の隣にはあまり関わりはないだろうと思っていた雪平がいる。

 何で呼び出されたのか……俺と雪平にはなんの接点がない。唯一あるとすれば……ぼっち同士ということくらいか?


「急に呼び出して悪かったな」


 ロリおっぱい先生……もとい中野先生が俺たちを一瞥した後、口を開く。


「唐突で悪いんだが……お前たち推薦は狙ってないか?」

「……推薦、ですか?」

「ああ、工藤はたしか進学希望だったよな?」

「え、あ、はい。そうですけど……?」

「近くに小松原大学ってあるだろ?」


 小松原大学といえば、国内でも五本の指に入るほどの超エリート学校だったはず。


「そこの大学が今年から特別枠の推薦を実施するみたいでさ、その内容がこれなんだけど……」


 中野先生はデスク上に置かれていた紙を一枚差し出す。

 俺はそれを受け取ると、隣にいる雪平と一緒に内容を確認する。


 推薦枠 一名

【推薦条件】

 入学時から卒業まで成績が最優秀であり、生活態度においても優秀な者。


 参加条件を読んだ限りでは、俺と雪平も条件を満たしていることになる。

 が、推薦枠が一人というものはなかなかに倍率が高くなりそうだ。

 けど、その分と言ってはなんだが、特典として授業料が四年間無料な上に大学が管理しているアパート型の寮もタダで貸し出してくれるらしい。しかもそのアパートは築三年と新しく、バスとトイレは別。インターネットも無料というかなりのスペック。部屋は一つしかないものの、ロフトが付いているみたいなので、広々と使えそうだ。


「結構いい推薦枠だろ?」


 中野先生は何を企んでいるのかニヤニヤとしている。


「そう、ですね……」

「中野先生。一つ質問いいでしょうか?」


 と、それまで口を閉ざしていた雪平が小さく手を上げる。


「ん?」

「この推薦枠なんですが、“この学校だけ”ではないですよね?」

「ああ、よくわかったね。そうだ。市内全体にある高校全てが対象になっている。だから、その中で一番を取らなければ、特別推薦枠はない」

「そ、それじゃあ無理じゃないですか……」


 市内全域となると、倍率はえげつないことになると思うし、何より超エリートが通う私立高校もある。そんな奴らと頭脳で勝てる自信がない。


「まぁ一見はそう思わなくもないが、大丈夫だ。今回の推薦はテストの点数じゃない。“成績”だからな」

「それってどういう……」

「一般的な進学方法としてはやはりセンター試験などの類だろ? しかし入試に関しては違う。ほとんどの場合がこれまでの成績に着目している。スポーツ推薦だってそうだろ? 高校での大会出場履歴や実績などを主に見ているし、普通の推薦だって、成績や生活態度を見ている。つまり、一時的な頭の良さとかは関係ない」

「一時的って……」


 まぁたしかにどれだけ勉強したところで身に付く知識というものはほんの一部に過ぎない。同じところを毎日勉強していれば、また違ってくるのだが……。

 とにもかくにも俺たちにもチャンスがあるというわけか……。


「一応言っておくが、現時点でこの学校内において推薦が取れる可能性があるのは、お前たち二人だけだ。これを確実なものにするためにも一つ提案があるのだが……聞きたいか?」

「あるんだったら……」

「そうか! じゃあ、お前たち部活に入る気はないか?」

「「……部活、ですか?」」


 俺と雪平の声が見事にハモる。

 それに対し、雪平は尻目で俺の方を見ると、チッと不快そうな舌打ちをした。

 ――なんだよその反応は!?


「今のお前たちだともしかしたら推薦枠に入れないかもしれない。そこでだ。部活という付加価値を付ける。そうすることによって他のライバルとの差をより引き離す。いい提案だと思わないか?」

「それはまぁ……いいとは思いますけど、部活ってもう俺たち二年ですよ? 今からしたところであと一年ちょっとだと思いますし、それこそ学業に支障がでたりする可能性もあるんじゃないですか?」

「そうだな。その部活になんらかの技術が必要だった場合はそうだ。が、今回お前たちのために新しい部活を作ろうと思っている。もちろん顧問は言い出した私だ」

「……どんな部活なんですか?」

「うーん……そう、だな。ひとまずはボランティア活動を軸にした部活の方が評判も上がるだろ。そこのところはまた明日、決まり次第伝える。とりあえず入部するかしないかだけ聞かせてくれ」


 俺はどのくらいか考えてみる。

 部活をした方が、評価も上がることは間違いないし、やってて損はないと思う。

 家の家事も桜に任せるか、時間をズラしてやればいいだけの話だし……


「俺、やります」

「わかった。雪平はどうだ?」

「……わかりました。参加させていただきます」

「そうか。じゃあ、また明日伝えるから今日はこれで帰っていい。急ですまなかったな」


 俺と雪平は中野先生に一礼してから職員室を後にした。

 それにしても俺が部活か……。

 中学の頃から少しは憧れを持っていたけど、見ての通りぼっち。やったところで絶対にハブられると思い、全然参加する気になれなかったんだよなぁ……。

 でも、今は違う。ぼっち仲間がいる。

 廊下を歩いている中で、俺はふと隣に目を向ける。

 ほんと学校一の美少女だけあって、横顔も様になっているよなぁ……。


「気持ち悪いからあまり見ないでくれる?」


 視線に気づかれたのか、真正面を見たまま雪平は嫌そうな口調でそう言った。


「ぐっ……」


 このアマ……。

 やっぱり俺、こいつ嫌いだわ。クッソ。顔だけいい奴め……。

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