第6話 仲のいい兄妹①

「お兄ちゃん起きて」


 翌朝。

 いつもならスマホのアラーム音で目を覚ますのだが、今日に限っては違った。

 ゆさゆさと体を揺さぶられ、聞き馴染みのある声が耳に入ってくる。


「……ん」


 俺は眠気目を手で擦りつつ、ベッドの傍に視線を向ける。

 それからして寝起きということもあり、一瞬ぼーっとしてしまったが、すぐに理解が追いつく。


「……って、桜?!」


 俺は勢いよく上体を起こした。

 そこにいたのは我が妹にして、制服の上にエプロンをした桜。


「ほら、早く着替えて。朝ご飯冷めちゃうよ?」


 桜はそう言うと、部屋から出て行ってしまった。

 ――夢……?

 俺は夢でも見ているのか? 普段なら起こしにも来てくれないし、朝ご飯だって各自で適当なものだし……と、当初はそう思ったが、昨晩のことを思い出せば、ある程度は納得ができる。

 桜の言っていた仲のいい兄妹とはこのことなんだろうか?

 とりあえずパジャマから制服に着替え、顔を洗いに洗面所へと向かう。

 そしてリビングの方に向かうと、ダイニングテーブルの上には美味しそうな料理が並んでいた。


「これ……全部作ったのか?」

「うん、お兄ちゃんのために……えへへ♡」


 桜は照れ笑いを見せつつ、キッチンの方へと何かを取りに行く。


「はい、これ」


 戻ってきたかと思えば、渡されたものは……弁当箱だった。


「……いいの?」

「いいのって、お兄ちゃんのために作ったんだからむしろ食べてもらわないと困るよ! 愛妻弁当ならぬ愛妹あいまい弁当だから残さずにちゃんと食べてね!」

「愛妹って……」


 変な造語作るなよ……。

 そう思いつつ、弁当を一旦ダイニングテーブルの端に置き、俺たちはそれぞれの場所に席を着く。


「いただきます」

「あ、ちなみにデザートもあるよ」

「デザートって……何?」

「それは……ワ・タ・シ♡」


 という桜は無視してさっそく朝ご飯を食べ始めた。

 これから桜が毎朝作ってくれると考えると、いろいろとありがたい。今までは適当だった分、昼休みまで腹が持たなかったことが多々あるからなぁ……。その点においては今後は改善されるだろう。

 仲のいい兄妹……桜はそんなことがしたいと昨晩言ってたけど、これなら全然ありだ。想像していた“こと”とは違って本当によかった。

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