第5話 お兄ちゃん……殺すよ?
リビングのダイニングテーブルにて。
俺と桜はそれぞれ向かい合う形で席についている。
ここでしっかりと俺の気持ちを言わなければならない。
緊迫とした空気が流れている中で、俺は重々しく口を開く。
「桜。俺たちの関係はなんだ?」
「兄妹であり、いずれは夫婦になる仲です」
「うん、前述だけ合ってあるね。それでなんだけど――」
「お兄ちゃん」
話している途中で遮られた。
桜は若干顔を伏せがちにする。
「ん?」
「お兄ちゃんは桜のことどう思ってる?」
「どうって?」
「好きか嫌いかなんだけど……?」
そして再び顔を上げた桜の瞳はどこか寂しげにも見えた。
おそらくは“兄妹として”好きか嫌いかではなく、“一人の女性として”問われているのだろう。
そんな答え桜自身もとっくにわかっているはずなのに……ちゃんと答えてあげたら諦めてくれるだろうか。
「嫌い……ではないにしろ、それに関しては判断が難しい。そもそも兄妹なんだから普通はその基準で好きか嫌いかなんて考えもしないだろ?」
俺の返答に対して桜は悲しげに微笑む。
「そう、だよね。なんか変なことを聞いてごめんね?」
「いや、わかってくれればそれでいいんだ」
「うん、要するにお兄ちゃんはまだ桜に対して気持ちが傾いていないということなんだよね」
「……はい?」
「桜がんばるね! お兄ちゃんを完全に堕として見せるから!」
桜は席を立つとびしっと人差し指を突きつけて、ドヤ顔をする。
「おい、ちょっと待て」
「へ?」
「俺の話聞いてたか?」
「もちろん!」
「嘘つけ! どこをどう聞いて解釈したらそんな結論に至るんだよ! 俺は桜とは付き合わないと言ったんだぞ!?」
「そだね。でも、それって“今は”でしょ?」
桜は小首をちょこんと傾げる。
「ちげーよ! 今もだけど“これからもだ!”」
やっぱり一筋縄ではいかなかったか……。
一瞬わかってもらえたという安心感を返してもらいたい。
一方で桜はというと、さほど気にした素振りも見せず、「ふーん」とした感じ。
「お兄ちゃん」
「ん、次はなんだ?」
「そう言えば、前々から思ってたんだけどさ、お兄ちゃんって綺麗な女性とか見かけたらなんかいっつもニヤニヤしちゃってるよね」
「え、そうだっけ?」
「そうだよ。てか、気づいていなかったの?」
全然気づいていなかった。というか、無自覚。
「お兄ちゃん……桜その様子見るたびに毎回ヤキモチしてたんだよね。桜に対してはニヤニヤもしてくれなければ、卑猥な事、妄想もしてくれない……。学校一の美少女なのに……周りの男子からモテまくってるのになんでお兄ちゃんは桜にだけは変なことをしてくれないの?」
「ちょ、ちょっと待って。な、なんかヤンデレになってんぞ!?」
桜の瞳には光が宿っておらず、くすんでいた。
「ヤンデレ……? ナニソレ?」
「だ、だから桜の今の状態がヤンデレって言うんだよ!」
「へぇー……そうなんだ。でも桜にはちょっと難しいかなー。とにかくお兄ちゃん。次、桜以外の女性に対してニヤニヤしたり、変な妄想や変なことをしたら殺しますから」
と言って、桜はどこから取り出したのか手に包丁を握りしめていた。
しかも偽物とかじゃなくてマジのやつ。
それを思いっきりテーブルの上に突き立てる。
「ヒィッ?! ちょちょちょちょっと待て! それは無茶すぎるだろ!」
「そうだね。男の人は抜かないと溜まっちゃうもんね。それで変な事件を起こされたりでもされたら困るし……あ、桜ならいつでもスタンバイOKですよ?」
「何言ってるの?! と、とにかくだ。そんな束縛みたいな要求には従わないからな!」
「…………仕方ないなぁ」
桜は再び席に着くと、諦めたかのような大きなため息を吐く。
「わかったよ。一万歩譲って、先ほど言った要求は撤回する。ただし、家の中に限ってはたくさんイチャイチャしてもらうからねっ!」
「イチャイチャって……」
「いいじゃん。イチャイチャって言っても仲のいい兄妹みたいな感じだよ? カップルみたいにキスまではしないって」
そう言って、笑って見せる桜。
なんか胡散臭いというか、疑心暗鬼な部分はあるにせよ、普通の仲のいい兄妹であれば、何も問題はない。おそらく一緒に料理をしたり、買い物に出かけたりとかそんな類なんだと思う。
「わかった……。じゃあ、今日はもう遅いから先に寝るわ」
スマホで時間を確認すると、もうすぐで九時五十分。
結局話は思った以上に長引き、勉強する時間すらなくなってしまったが……ひとまずはカタがついたでいいのかな?
椅子から立ち上がると、大きなあくびと伸びをしてからリビングを出て、二階にある自室へと移動した。
俺の妹……ブラコンでヤンデレって……ははは。意外な一面がまた増えた。
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