第4話 お兄ちゃんのパンツくんかくんか
夕食やお風呂などを終え、皿洗いなどのちょっとした家事を済ませた頃にはもうすでに午後九時を回ろうとしていた。
桜はいつも通りというか……目立って変わったという風もなく、お風呂に入った後はすぐに俺の部屋の隣にある自室へと戻っている。
「さて、他にやることはっと……」
皿洗いを終え、洗った皿をキッチンペーパーで拭きながら頭の中で考える。
ちなみにと言うか、我が家ではもちろん母さんがいなくなったことにより家事の分担がされているのだが……見ての通り大半が俺だ。なぜか俺がほとんどをやらされている。
というのも、結局家に早く帰ってくるのは俺だし、帰宅した後は何かと暇な時間が多い。そのため、空いた時間でいろいろとやっているうちになんか定着してしまった。
いろいろと文句はあるが……言ったところで帰りが俺より遅い桜に夕飯の支度や買い物、お風呂の準備、掃除などはやらすわけにはいかない。
そんな桜は何を担当しているかというと、洗濯のみ。
朝食は各自で好きなものを適当に済ませるという形をとっているため、桜が担当するものは必然と洗濯のみになってしまう。
なぜ洗濯なのか……これに関しては説明するまでもないだろう。
皿を全て拭き終えた俺は、リビングを出て階段を上る。
そして昨晩の件について話し合うため、桜の部屋前まできたのだが……
『はぁ……はぁ……はぁ……』
中から荒い息が聞こえてきた。
こんな時間帯に何をやっているのだろうか……? ちょっと気になる。
本当はやっちゃいけないことだが……バレなければ問題じゃないよね!
ということで、そっとドアノブに手をかけ、数センチほどドアを開けた後に中を覗く。
桜はどうやらベッドの上に仰向けになっているようでパジャマ姿のまま、鼻に何かを押し付けてくんかくんかしている。
――何をそんなに……?
それだけいい匂いってことなのか?
女子には匂いフェチが多いって、動画の広告とかでよく見かけるし……
「って、何嗅いでんじゃごらあああああ!」
俺はドアを思いっきり開けると、桜の手に持っていた“パンツ”を奪う。
「お、お兄ちゃん?! なんでいきなり入ってくるの! というか、それ返してよぉ」
桜は上体を起こすと、すぐさまに取り返そうと躍起になる。
「返すかバカ! なに人のパンツを平然と嗅いでんだよ!」
「……ダメ?」
「上目遣いを使っても俺は騙されないぞ?」
「なんでよぉおおお! いいじゃあん! パンツくらい!」
桜が半泣きになりながら俺の襟元を掴んで激しく揺らす。
「ちょ、やめろ! 首締まってるから……」
「じゃあ、パンツ頂戴!」
「アホか!」
「じゃあ、仕方ないから百歩譲って彼女になってあげる」
「いい! 別に桜が彼女になってもらうほど女に飢えてるわけじゃない!」
俺はどうにかこうにかで桜の手を振り解く。
――こりゃあ重症以上だなこれ……。
本当に矯正が可能なのかすらも疑わしい。
「と、とりあえずリビングに来い。そこで一旦話し合おう」
俺はそれだけを言い残すとそそくさと桜の部屋から出て行った。
長時間あそこにいると、ブラコン桜から何をされるか想像ができない。
今はパンツだけで済んでいるけど、これから先もっとエスカレートしていくという可能性もなくはないし……昨晩の夜這いがいい例だ。
「もうすぐ受験勉強にも取り組まないといけない時に……」
なーんでこうなってしまったんだろうな。
来年受験生なのに……厄介な問題が出てきてしまったなぁ。
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