告白ループ

roundra

第1話

「ほら、和泉!早く起きなさい!」


母さんの呼ぶ声を聞いて俺は目を覚ます。

……今日は休みなのになんで母さんに起こされなきゃいけないんだよ……。

そう考えながら一階のリビングに向かうと何か違和感を覚える。


「今日は、健二君の家で櫻子ちゃんも一緒に遊ぶんでしょ?早く、朝ごはんだけでも食べちゃいなさい」


「え?それは、昨日……」


俺たちはそこまで言ったところで朝食の並んでいるテーブルを見る。目玉焼きにベーコン、ご飯、それと醤油。


「ん?昨日と同じなの?」


「昨日と同じ?あんた、何言ってるの?」


「いや、朝ごはんが昨日と同じだなって」


「は?何言ってんの?あんた、昨日は寝坊して朝ごはん食べずに学校行ったじゃない」


「え?それはおととい……」


ん?なんか、さっきも同じようなやり取りをしたような……。


「え?母さん、今日って11月15日だよね?」


俺の質問に母さんは呆れたような顔を見せる。


「何?あんた、寝ぼけてんの?今日は11月14日でしょ」


「え……?それは、昨日……」


「もう。バカなこと言ってないで早くご飯食べちゃいなさい!」


どうなってるんだ……?

いや、これってもしかして……ループってやつ?

いや、本当にそうだとしたら、スマホの日付が……あー、そういえば金曜日に壊れたんだった……。こういうときに困るよな。手元にないと。


俺は不可解な気持ちを抱えたまま朝食を食べきり、健二が呼びに来るのを待った。

もしも昨日が繰り返してるんだとしたら、そろそろ……。


ピンポーン


呼び鈴の音がする。俺は立ち上がり、インターホンの方に向かう。


「おい。今日はうちで涼香と誕生日の前祝いするって話だろ。早く来いよ」


「お、おう。悪い。ちょっと寝坊してさ……」


間違いない。健二の来た時間は昨日と全く同じ時間。健二の言った言葉は昨日と全く同じセリフだ。

やっぱり、俺は昨日を繰り返してるんだ……。

ってことは、あのこともなかったことになってるってことか?


健二の家は俺の家の隣。

子どもの頃から一緒に育った。

涼香は少し先の家に住んでるんだけど、健二と同じく俺の幼なじみだ。


「なぁ、お前、本当に今日涼香に伝えるのか?」


健二の家について、部屋でくつろいでると突然そんなことを聞いてくる。

聞いてくるタイミングも昨日と全く同じだ。


「え……?あ、ああ……」


俺は昨日(今日?)のことを思い出す。


俺は11月14日、その日に幼なじみの涼香に告白するつもりだった。

少し前から計画していたことで、その日を迎える緊張のせいで金曜日は寝坊して学校に着くのもギリギリになってしまったぐらいだ。金曜日の夜も緊張で夜更かししてしまい、結局朝起きるのも遅くなってしまった。

それで、健二が迎えに来た時は緊張で心臓が飛び出そうなぐらいだった。


俺の誕生日と涼香の誕生日は同じ11月15日。俺たちは子どものころから一緒にその日を祝い、一緒に成長してきた。今年は、その同じ誕生日を恋人同士として迎えたくて、俺は11月14日に告白することにしていたんだ。

そのことを健二にだけは話していた。

ダメだったら誕生日が気まずくなるって言って何度も止められたんだけど、俺の決意は固かった。この日のために気持ちを作ってきたんだ。


だから、涼香が健二の家にやってきてしばらくして、俺と涼香2人だけにしてもらったんだ。

健二の家で告白するのはどうかと思うんだけど、今日するならこの時しかなかったんだから仕方がない。

それから、その場で俺は意を決して涼香に告げたんだ。


「なぁ、涼香。俺たち明日で17だろ?」


「ん?そうだね。それが?」


あー。首を傾げるその表情もかわいいなぁ……。


「俺はさ、やっぱ、17歳の誕生日って大切だと思うんだよ」


「うん。私もそう思うよ」


そう言って涼香は大きくうなずいてくれる。

そうだよな。やっぱ、俺たちは同じことを考えてるよな。

そう思ってたんだよ。


「それでさ、俺、好きな人がいて……」


「ちょっと待って。それ以上は聞きたくない」


え……?何で突然。


「聞いてよ……。俺さ……」


「もういい!」


そう言って、涼香は帰っていってしまった。

俺の何がいけなかったんだろう。というか、涼香は何を察したんだろう……。



そんなことが昨日(今日?)あったせいで、俺は同じように昨日よく眠れなかった。

それで起きてみたら、昨日(今日?)が繰り返してたってわけだ。

正直、俺としては同じことを繰り返したくはないと思う。だから、健二の問いかけにうまく答えられない。


「ん?やっぱりやめることにしたの?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


「じゃあなんだよ」


少し怒ったように言う健二に対して、俺はそれでもうまく返すことができない。

あ……でも、こうしていると確かそろそろ……。


ピンポーン


健二の家のインターホンの音だ。

そうだよな。昨日を繰り返してるんだったらちょうど、涼香が来るのはこのぐらいのタイミングだ。


「おっ。涼香も来たみたいだな。今日は諦めたって言うならそれはそれでいいからな。正直失敗してから気まずくなるのだけは嫌だからさ!」


そう言って健二は部屋を出て涼香を迎えに行く。

そうだよな。昨日だった今日は涼香が出て行ったあと、健二が俺を慰めるのに必死だったもんな。

考えてみたら、気まずかったよな。

だけど……。


「おはよう。和泉」


涼香が部屋の中に入ってくる。

そうなんだよな。やっぱ、可愛いんだよな。


改めて会ってみてそう思う。

昨日見た涼香と同じ服装だ。いや、昨日を繰り返してるんだからそれはそうなんだけどさ。

よく見慣れた白い服。

俺はその服の涼香が一番好きだ。


「おう。おはよう。涼香」


俺も、今日は昨日なんだからと思い、できるだけ昨日と同じやり取りをしようと努力してみる。

ここから、昨日は少し話したら約束通り健二が部屋を出て行ってくれたんだよな。


さっきは、昨日のことを思い出して微妙な返答になっちゃったけど、直接涼香と会ったらやっぱり告白した方がいいんじゃないかって気分になってきた。


「健二。そういえば、お前さっき、コンビニ行ってこなきゃとか言ってなかったっけ?」


俺は、予定していた通りの言葉を健二に投げかける。

健二は、(マジかよ)って顔してるけど、マジなんだよ。ごめん。


「ん?あぁ、そうだったな。悪い。ちょっと待ってて」


そう言って健二は部屋を出ていく。

よし。流れ的には昨日と同じだ。

ただ、このまま話を振ったら昨日と同じ展開になっちゃうよな……どうしよう……。


「ねぇ、私たち、もう明日で17歳だね」


ん?涼香から話しかけてきた。


「ん?そうだな。それが?」


なんか、昨日と逆転してる感じが……。


「私さ、やっぱり、17歳の誕生日って大切だと思うんだよね」


「え……?うん。そうだな。俺もそう思うよ」


そう言って俺は大きくうなずく。

ん?なんだ?この展開……?

俺たちは同じこと考えてるよなやっぱり……?


「それでね、私、好きな人がいて……」


「ん……?ちょっと待った……」


ん?マジで、なんなんだこの感じ。


「ううん。聞いて」


そう言って涼香は俺のことを見つめてくる。

あー、やっぱりめっちゃかわいい。


「私ね、誕生日にその好きな人に告白しようと思ってたんだ」


「へぇ。そうなんだ……」


ん?誕生日に?でも、誕生日は明日……。


「そうなんだけどね、昨日、突然その好きな人に告白されそうになってさ……」


「へぇー……」


「で、突然のことにびっくりしちゃって、私から告白するつもりでいたのに、そんなの聞きたくないって思っちゃって、逃げちゃったの」


ん……?どっかで体験した話のような……?


「それで、その人がその後めちゃくちゃ落ち込んでたって健二に聞いて……。で、私思ったんだ。告白されそうになったことをなしにして、私の計画通り誕生日に告白すればいいんじゃないかって」


え……?ん……?


「それで、健二とか、和泉のお母さんに協力してもらって、昨日を再現してもらったの」


「は……?へ……?え……じゃあ、今日って昨日じゃなくて今日なの?」


「そう。今日はだから、ちゃんと昨日じゃなくて今日。私たち2人の誕生日」


「あー、へぇー……」


全く状況が飲み込めない。

けど、そういうことなんだろう。


「だからね、元々の計画通り告白します。私は和泉、あなたのことが好きです。私と付き合ってください」


「え……?も、もちろん!」


こうして、俺たちは俺たちが生まれた日に恋人同士になりました。

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