第6話 親友とは、普段はウザイが大事な時ほど頼りになる存在だったりする。


「ねぇねぇ昨日のこと聞いた?」

「聞いた聞いた、これで何人目だっけ?」

「入学してから2ヶ月で既に片手じゃ足りないぐらいだって」


「今度はB組の真田らしいぞ」

「真田って1年ながらスタメン入りしたサッカー部期待の新人だろ? それでダメって誰ならいいんだよ……」

「それが、実は……」

「おい、もしかしてあいつがその噂の奴じゃ……」


 なんだ? 今日はやけに騒がしいな。それに少し視線も感じるような気がする。


「今日はなんか賑やかだね」

「だよな。紫音は何か知ってるか?」

「ううん、何も。なんだろうね?」

「さぁな、紫音に分からないんじゃ俺にわかるわけ無いだろ」


 まぁ知ってそうな奴に心当たりはあるけど……


 そんな事を考えているとちょうど今思い浮かべてた人間が背後から俺達の元へ駆け寄ってきた。


「おっす、二人とも。相変わらずのラブラブ登校だな」

「宏太か……別にラブラブじゃない。それより、なんか今日皆騒がしいけど何か知ってるか?」


 噂に敏感なこいつなら何かしら知ってるだろと思いさっきまで紫音と話していた事について聞き出す。


「あぁ、この騒ぎか? もちろん知ってるよ。なんでもまたA組の櫻葉さんが告白されたんだと。まぁでも、確かに今までにも何回か告白されてたのに今回だけこんなに騒がれてるのかは気になるよな」


 なるほど、そう言うことだったか。けど宏太の言う通りそれが原因ならなんで今回に限ってここまで騒がれてるんだ?


「その事について知ってることないのか?」

「いや、もちろん知ってるぜ。けど……」

「けどなんだよ」

「いや、ここでは言わない方がいいんじゃねぇかと思ってよ……」

「そこまで聞いちゃったら逆に気になるだろ! いいから言ってみろって」

「私も気になる! 教えて?」

「じゃ、じゃあ、言うぞ?」


 そうして宏太は一度深呼吸をした後言いづらそうに話し始めた。


「櫻葉さんは昨日の告白でもいつも通り好きな人がいるって断ったみたいなんだけどその理由に振られた真田が納得出来なかったみたいでさ、その後それが誰なのか問いただしたみたいなんだ。その時に出した名前が……」


 そこまで聞いてこの後宏太の口から出てくる言葉がなんなのか俺は薄々察することができた。そして脳裏には1年前の記憶が思い起こされる。

 そして、案の定宏太の口から出た名前は……


「由良蒼詩」


 やっぱり、な……


「えっ、それって……」

「……」

「はぁ、だから言ったろ。ここでは言わない方がいいって」


 宏太は確かに言っていた。この場所では言わない方がいいと、けどその忠告を聞かずに内容を知らなかったからと言って聞いたのは自分だ。だからこそ、宏太のその言葉に俺は何も返事を返すことができなかった。


 自分で自分の首を絞めちまったか……


「え、えっと、つまり櫻葉さんは蒼ちゃんの事が好きってこと?」

「うん、そう言うこと。ずっと紫音ちゃんには言うなって言われてたけどこの際だから言っちゃうとこいつ中3の頃に櫻葉さんに告られてんのよ」


 こいつ、勝手に喋りやがった……。まぁ、ここまでバレてるなら今更って気もするし自分で言うことにならなかっただけでも良かったか。


「へ、へぇ、そうだったんだ。凄いね蒼ちゃん、あんな可愛い子に告白されるなんて。でも、なんで? 蒼ちゃんって私と私の友達以外の女子としかあんまり喋らないのに……」

「それは……」


 言えない、と言うよりもあの時の事については正直思い出したくもない。それだけ、俺にとっては消し去りたい記憶なんだ。


「大丈夫か蒼詩? 辛かったら無理して言わなくてもいいんだぞ。後からだっていいしなんなら俺が代わりに言うか?」

「いや、いい。この事はちゃんと俺の口から説明しなきゃダメだと思うから」

「そっか、お前がそうするって言うなら俺は止めねぇよ。けど、するならこんな所じゃなくて家に帰ってから美琴ちゃんもいるところで話そうぜ」

「あぁ……」


 そうだった、すっかり忘れてたけどここは朝の廊下。ゆっくり話してる時間も無いし今の状況じゃ上手く話せそうにもない。


「とりあえず教室行こうぜ、早くしないとホームルームに遅刻するぞ。紫音ちゃんも、詳しい話は放課後するから」

「う、うん」


 ほんと、宏太には今回に限らずあの時も今までも助けられてばっかりだな……


「ほら、蒼詩も。立ってないでとりあえず教室行って座ろうぜ。その方が落ち着くだろ」

「あぁ、そうだな……。なぁ、宏太」

「ん? どうした」

「ありがとな……」


 突然感謝されてもあっちからしたら何がなんだか分からないかもしれない。急にどうしたんだと思うかもしれない。

 けど、それでも伝えたくなった。それだけの事をしてもらったから。

 そんな俺の、自己満足でしかない感謝の言葉にも宏太はいつも通りの殴りたくなるようなそれでいて俺の事をよく理解してくれているあの笑顔で答えてくれた。


「なんだよ急に改まって……別に、そんなこといちいち気にすんなよ」


 あぁ、やっぱり、こいつと友達になれて良かった。

 とても本人に言えたことではないけどそれでもやっぱりそう思う。


 3年前の俺よ、これからできる唯一の親友は絶対に、大切にしろよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る