第4話 相合傘?


 放課後、俺は宏太と二人で帰宅もせずに降りしきる雨を教室から眺めていた。何故帰らないのかと言うとそれは……


「朝晴れてたからと言って傘を置いてきたのは失敗だったな」

「仕方ねぇよ、昨日の天気予報でも晴れって言ってたんだし」

「これだから梅雨は嫌いなんだ」

「それでどうする? しばらく止みそうにもないしかと言って傘は1本ない。このまま雨に濡れて帰るか?」

「まぁ、それしかないだろうな……」


 自業自得とは言えまた濡れて帰るのか、今度から晴れてても傘持ってこないとな。


「よし、そうと決まればこれ以上酷くならない内に行くか」

「あぁ」


 俺は重い腰を上げて宏太の後に続き教室を出た。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲


 帰ると決めて昇降口まで来たはいいけど改めて外を見ると結構降ってるな。


「割と降ってんなー、こりゃ本当に早く帰んないとやばそうだぞ」

「だな、この調子だと帰ってる間に酷くなってもおかしく無さそうだ」


 そうして2人で靴を履いていると入口付近に人影があるのに気づいた。


「あれは……紫音? どうしたんだこんな所で」

「あ、やっと来た。待ってたんだよ」

「待ってたって、お前友達と帰ってたんじゃないの?」

「そうなんだけど、蒼ちゃん朝傘持ってきてなかったなと思って戻ってきたの。美琴ちゃんからも一緒に帰ってくるよう連絡来てたから」


 なるほど、そういう事か。


「とりあえず酷くならない内に帰ろ。はい、傘」

「おう、サンキュー……って、1本だけ? しかもこれ紫音のだし、もしかして……」

「うん、一緒に入ってく」

「だよなぁ、まぁ濡れないだけでも良かったってことにするか。それじゃあ行くぞ」

「うん!」


 俺は紫音に渡された傘を差しその中に紫音を入れて雨の降る外を歩き始めた。



「あの二人、完全に俺の存在忘れてるなー。まぁあの二人のやり取り見てるだけで面白いし少し後ろから眺めてるかな」


 ▽▲▽▲▽▲▽▲


「蒼ちゃん大丈夫? 疲れてない?」

「うん、これぐらいなら大丈夫」


 どちらかと言えば紫音の移動するペースに付いていく方が疲れる。

 道端にカタツムリを見つければ走りだし、公園の椅子の下で雨宿りをする猫を見つければ走り出す。まるで小学生みたいだな……


「あ、蒼ちゃん肩濡れてる。もっとこっち来なよ」

「いや、いいよこれぐらい。それにこれ以上入ったら狭いし」

「大丈夫ですー、私体細いもん」

「それ自分で言うか……?」


 まぁ確かに贔屓目なしに見ても紫音はスタイルいい方だと思う。痩せているウエストは細すぎず何よりも目が引かれるのは制服を押し広げんばかりに成長した2つの果実だ。ほんと、だからこそこの間みたいな緩い服装は辞めて欲しいんだよな……

 それに本人には絶対に言えないけど顔も可愛い部類だろうしな。

 中学の頃から男子の間では密かに人気だったしそう考えると紫音って割とモテるよな……


「えいっ!」

「おわっ! おまっ、何すんだいきなり!」


 そうして考え事をしていたらいきなり紫音に傘を持っている腕を捕まれ強引に紫音の体の方へ引っ張られる。


「なんか、こっち見ながらずっとボーっとしてたから」


 まじか、それ普通にキモイ奴じゃねぇか。


「そ、それは悪かったけど、だとしてもお前なぁ、いきなり引っ張られたらビビるだろ。それに……」


 デカいメロンが当たってるんですけど! なんだ、わざとなのか? いや、紫音ならわざとって言うのは考えづらいか。ところで、何か忘れているような……


「いやー、それにしても本当に仲良いよな君たち。俺の事すっかり忘れてイチャつくもんだから中々会話に入りづらかったわ。あー、俺も彼女欲しーなぁ」


 そうだ、宏太がいるの完全に忘れてた……と言うかこいつここまでずっと雨に打たれてついてきてたのか? なんか悪いことしたな……


「なんか、俺達だけ傘使ってて悪いな……俺のカバンも使うか? 」

「気にするなって。まぁ、カバンは貸してもらうけど」

「ほらよ、あ、あと家の方が近いからシャワー浴びてけよそのままじゃ風邪ひくだろ?」

「お、サンキュー。そうさせてもらうわ」


 いや、でもよく考えたら忘れてた俺達も酷いけど何も言わずここまで雨に濡れながら付いてきたこいつも相当やばいんじゃ……


「で、二人は家に着くまでずっと腕組んでるのか?」

「いや、別に組みたくて組んでるわけじゃ……それとさっきのやつ、別に俺達付き合ってるわけじゃないからな。お前もよく知ってるだろうが」

「いやー、でもこんなの目の前で見せられたらなぁ?」

「そう言われると何も言い返せない……紫音も黙ってないで何とか言えよ」

「蒼ちゃんは欲しくないの? 彼女」

「いや、欲しくない訳じゃないけどそれは今じゃないって言うか……それに今の話はそういう事じゃないだろ」

「え、違うの?」


 こいつ、今の話の流れでわかってなかったのかよ……


「今のはな、俺と紫音が腕組んで歩いてたから付き合ってるみたいだなって言う訳で」

「え? あ、いや、えっと……付き合って、ないよね?」

「あ、あぁ……」

「そ、そっか……」


 何だこのとてつもなく気まずい空気は! これも全て宏太のせいだ、あいつが余計なことさえ言わなければ……


「お、お二人さん着いたぞ」

「え? あ、もうそんな所まで来てたのか」

「とりあえず寒いから早く入ろうぜ」

「そ、そうだね。入ろっか」


 結局、俺の顔の熱が下がりきる前に俺達は家の中へと入った。

 その時横目で見た紫音の顔がどこか赤くなっているように見えたのはどうか気の所為であってほしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る