第2話 雨の日は危険だ。傘を忘れてはならない


「はぁ、今日も疲れたー。早く美琴ちゃんに頼まれたやつ買って帰ろ」

「だな、雲行きも怪しくなってきたし」

「今日って天気予報雨だっけ?」

「確か夕方から振るところもあるって言ってたような気がする」


 今振られるのはちょっと不味いな。俺も今日に限って傘忘れたし紫音は言うまでもなく持ってないだろうし。何よりスーパーで買ったものが濡れてしまうのも少し困る。


「せめて家に着くまでは降らないといいんだけど……」

「よし、そうと決まれば早くスーパー行こっ。美琴ちゃんも家で待ってるだろうし」

「おう。あ、だからって周り見ずに走るなよ。事故にでもあったらシャレにならん」

「もう、それぐらいわかってるよ」


 はぁ、本当にわかってるんだか怪しいな。俺がしっかり見てなければ……


「蒼ちゃん早くー!」

「おー、今行くー」


 ――――――――――――――――


 お、この鶏肉安いな。たまには豚肉じゃなくて鶏肉にしてみるか。

 えっと後は……


「後何かあったっけ?」

「んー、カレーの材料は全部買ったから……あ、ティッシュとお茶がもう無いから買ってきてだって」

「了解」

「あ、蒼ちゃんあとこれもっ」

「ん? どれ……って、これお菓子じゃねぇか」

「いいでしょー1個ぐらい」

「はぁ、仕方ないな……よし、俺も買ってこよう」

「美琴ちゃんの分も買ってかなきゃね」

「だな」


 なんか、紫音とスーパーに買い物に来ると毎回お菓子買ってる気がするな……まぁそれは置いといて、とりあえずこれで頼まれたものは全部か。それじゃあレジに……


 そうしてレジに向かおうとそちらを振り向けばどのレーンも長蛇の列が出来上がっていた。


「うわ……」

「これは時間かかりそうだねー。あ、セルフレジなら空いてるっぽいよ」

「仕方ない、面倒臭いけどそっち行くか」


 出る時に雨降ってないといいけど……


 ――――――――――――――――


「あちゃー、降ってるね」

「それでも土砂降りじゃないだけマシだ。家まで10分もかからないしこれぐらいなら走れば大丈夫だろ」


 とは言ったもののあまり風邪も引きたくないしな。

 美琴に風呂の準備しといてもらうか。

 

「紫音、美琴に風呂の準備しとくようお願いしたから早く行くぞ」

「うん」



 はぁ、はぁ、何とか本降りになる前に帰ってこれたな……にしても、さすがに2リットルのお茶の入った袋持ちながら家まで走るのはキツい……


「「ただいまー」」


 俺たちが同時に帰宅した事を知らせると廊下の奥からパタパタと走る足音が聞こえてくる。


「おかえり2人とも。はいこれ、バスタオル」

「おう、サンキュー」

「ありがとう美琴ちゃん」

「ちょうど今お風呂沸いたから風邪ひく前に入っちゃってね」

「おう、紫音先入っていいぞ」


 さりげなくレディファーストできる俺さすが。と言うか、早く風呂に入ってくれ、この状況は目のやり場に困る……


「蒼ちゃん先でいいよ? ただでさえ体調崩しやすいんだから」


「いや、でもなぁ。一応紫音だって女子なんだしここはレディファーストだろ」


「お兄ちゃん、似合わないから辞めた方がいいよそう言うの。それと、意識しすぎ」


「え、ちょっと? 美琴さんお兄ちゃんに少し冷たくない? そ、それに、何を意識してるって言うのかな? って、そんな事はどうでもいい。とりあえず先に入ってきちゃえよ」


「うーん、じゃあ、一緒に入る?」


「断る。お前と一緒に入るとろくなことがないからな。小学生の俺は学んだんだ。それに、普通に考えてこの歳に同級生の女子と一緒に入るのはちょっと……」


 頭に体、何から何まで俺に洗わせ挙句の果てには潜水勝負を無理やりやらされた結果溺れかけたこともある。

 それに、小学生の頃ならともかく今一緒に入るのはその、色々とまずいしな……何がとは言わないが。


「……私は、別に気にしないのに……」


「っ! お前なぁ……今のは聞かなかったことにしてやるからさっさと入ってこい。こんなことしてる間に風邪ひいたら元も子もないだろ」


「……もう! この難聴系鈍感主人公!」


「なっ、おま! 聞かなかったことにしてやるって言ったろ! 俺は決して難聴系鈍感主人公なんかじゃねぇ」


 ったく……こっちの気も知らないで好き勝手言いやがって。何年一緒にいると思ってんだよ、お前の思ってることぐらい、だいたい察しがつくっての……


「なんでもいいけど、温くなる前に入っちゃってね。2人まとめて看病なんてさすがにできないよ私」

「あ、ごめんね美琴ちゃんすぐ入ってくる!」

「はーい、着替えは後から持っていくね。あ、濡れた制服とかもついでに洗っとくから洗濯機の中入れといて」

「ありがと〜」


 はぁ、ようやく行ったか……


「紫音ちゃんもなかなか酷いことするよねー」

「? どした急に」


 嫌な予感がする、そして何より俺は妹のこの笑顔をよく知っている。これは、宏太や美琴が俺を弄る時に良くする顔だ!


「童貞拗らせてるお兄ちゃんにはさっきの提案は少し刺激が強すぎたんじゃないかなーと思って。生殺しってやつ?」

「美琴ちゃん? どこでそんな言葉覚えてきたの、お兄ちゃんそんな言葉教えた覚えないぞ。今すぐそれに関連する単語を頭から焼却しなさい」

「いや、さすがにこの歳にもなれば自然と覚えるから。私を小学生かなんかだと思ってない? もう中学生だよ?」

「いつからお前は芸人になったんだ?」

「はぁ、もういいよ。体吹いたら荷物キッチンに運んどいて。私は紫音ちゃんの着替え持っていくから」

「おう、わかった」


 なんか、心做しか最近美琴の俺に対する対応が冷たい気がする。お兄ちゃんは悲しいぞ妹よ。


 ――――――――――――――――


 紫音が風呂に入ってから10分程経っただろうか。濡れた制服のままいるわけにもいかず一旦部屋着に着替え今はリビングで暇つぶしにゲームをしている。


 やっぱス○ブラは最高だな。よし、夕飯を食べ終わったらまた紫音をサンドバック代わりにしよう。


「お風呂上がったよー」

「おう、じゃあ俺入るわ……って、紫音さん? それは俺のTシャツでは?」


 しかもよりによって部屋着用のダボッとしたやつ。この格好は色々と危ないと思うんだが?


「うん借りてる〜」

「何故に? 普通そこは美琴の奴を借りるのでは?」

「仕方ないでしょ。悔しながら私の服じゃ色々と今の紫音ちゃんのサイズに会わないし」

「お、おう……」


 確かに紫音は中学の頃と比べこの2年で色々とかなり成長を遂げているけども、これは何と言うか……


「なんか、エロくね?」


 オーバーサイズを着ていることによる胸元の防御のうすさとか下も大きすぎて履いてないように見えるし何より俺の普段着を着ているという背徳感。控えめに言ってかなりやばい。

 幼なじみと言えど思春期の男子高校生にこれは破壊力が強すぎるだろ?


「……蒼ちゃんの、エッチ」

「っく!」


 耐えろ、耐えるんだ俺。今ここで取り返しのつかない事になる訳にはいかない…………それに、相手はあの紫音だぞ? あいつの防御力の薄さは今に始まったことでは無いんだし今更あいつを見て興奮なんてするわけ…………


「お兄ちゃん、いつまでも紫音ちゃんのこと見てないでさっさとお風呂入ってきて」

「お、おう……」


 しまった、俺とした事が数秒意識を異次元に飛ばしていたらしい。にしても、どう着ればあの見えそうで見えない現象が起こるんだよ……

 

「よ、よし。それじゃあ次俺入ってくるわ」

「あ、うん。行ってらっしゃい」

「お、おう……」


 なんか、さっきから同じ返事しかできてない気がするなぁ。今まで散々宏太をコミュ障だって言って弄ってたけどどうやら俺も同じみたいだ。


「お兄ちゃん、返事の童貞感が増してるよ? 大丈夫? お風呂汚さないでね? 私も入るんだから」

「 よよ、汚すなんて、そんな事するわけないだろー(棒)」

「あーハイハイ、棒読みで言えばバレないと思ってるんだろうけど逆に怪しいからね?」

「べ、別に怪しくないだろ? とりあえず風呂入ってくる」


 はぁ、何とかあの場からは逃げられたな。あのままあそこに居たらどんな事を言われるかわかったもんじゃない。…………一応、汚くならないように気おつけよう……

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