第1話 喧嘩するほど?
なんか、朝からどっと疲れた気がする。主に2人のせいで……
「そんな突っ伏してていいのか蒼詩、1時間目移動教室だぞ?」
「あ、そうだった、今日火曜日か。ごめん助かったよ」
「気にすんなよ。それより、早く準備しないと後10分しかないぞ」
周りを見てみると既に半分以上の生徒が移動を始めておりクラスに残ってるのは俺と宏太を含め数人だけだった。
本当だ、移動時間も考えたら急がないとギリギリになりそうだ。
まぁ、こうなった原因の半分はこいつにあるんだが……それは今起こしてくれた事でチャラにしてやってもいいか。
「悪い、待たせ……」
そうして俺が準備を済ませ宏太に声をかけようとした時廊下からそれはもう慌ただしい足音が聞こえてきて教室のドアが音を立てて開けられた。
「あー! やっぱり、蒼ちゃんまだ教室にいた」
「おー紫音ちゃん。どしたの?」
「蒼ちゃんいつもならもう授業の教室に来てる時間なのにまだいなかったから何してるのかと思って」
「あー、そゆこと」
「紫音、学校でその呼び方はやめてくれって言ってるだろ……」
「あ、ごめん。でも今更学校とそれ以外で呼び方変える必要あるの? それも私だけだし」
こいつ、人の気も知らないで……一般高校生が同級生にちゃん付けで呼ばれるのがどれだけ恥ずかしいことかいい加減理解して欲しいものだ。
「紫音ちゃん紫音ちゃん、蒼詩の奴照れてんだよ」
「そうなの? 私は別に気にしないのになぁ」
「男はそう言う訳にもいかないもんなのよ」
「でも、照れてる蒼ちゃんもなんかいいかも……」
「あーもううるさい、全部聞こえてるからな! 早くしないと置いてくぞ。遅れても知らないからな」
「あー、待ってよ蒼くん!」
「おま、起こしてやったの俺だぞ!? って、置いてくなよー!」
――――――――――――――――
「ふあぁ〜、今日の音楽も相変わらず眠かったな。そう言えば、今日は髪下ろしてるのな紫音ちゃん。イメチェンでもした?」
「ううん、今日寝坊しちゃってさ縛ってる時間無くて」
「なるほどね。蒼詩はどう思う?」
「どうって、何が?」
「紫音ちゃんが髪下ろしてるのだよ。今の流れからして普通わかるだろ」
「どうって聞かれても、普段と変わらないしこれといってなにか思うって言うのは無いな」
家に帰ればいつも下ろしてるしな、別に珍しいとは思わない。
「ちぇー、つまんねぇ返しだなー。と言うか、サラッと匂わせるのやめてくれない?」
「別に匂わせて無いだろ……それより、朝家に寄ったなら美琴がいただろ、なんでその時縛って貰わなかったんだ?」
「えっと、ゴム忘れちゃって……」
全く、どうして学校ではしっかりしてるのにそれ以外ではこうもダメダメなんだか。
だいたい、女子なら髪ぐらい自分で結べてもいいだろうに。出かける時とか解けたらどうするんだ。って、だいたい出かける時は家か外に出ても美琴が一緒に居るか……
「はぁ、学校以外でもしっかりしてくれるともっと助かるんだけどな」
「紫音ちゃんのギャップは今に始まったことじゃないだろ?」
「2人ともちょっと酷くない? 私だって少しは成長してるんだよ?」
「成長してる奴は人の忠告を聞かずに走って転んだりしないと思うけどな」
「それは……何と言うか、ごめんね?」
「……まぁ、別に慣れてるからいいけど」
上目遣いで謝ったからって許される訳ないだろう。
俺以外の奴だったら通用しないぞ。
「蒼くん顔赤いよ? 熱あるんじゃない?」
「違う違う、蒼詩は照れてんのよ」
「おい、クズなんか言ったか?」
「え、待ってクズって俺の事? 酷くない!?」
なんだ、自覚症状あったんじゃないか。
「紫音ちゃん、どう思うこいつ?」
「うーん、ツンデレ?」
「よし、わかった。お前ら表出ろ」
「怖っ! わかった悪かったって、謝るから後ろから出てるオーラみたいなのすぐしまえ! そのドス黒いやつ!」
「はぁ、仕方ない。次は無いからな」
「何とか生き延びたか……」
さて、次やったら何をしてもらおうか
「あっ」
そうして俺が宏太への報復を楽しく考えていると隣からメールを告げるポップな通知音とそれに続いて間の抜けた素っ頓狂な声が聞こえた。
「どうした紫音?」
「美琴ちゃんからメール。今日の夕飯はカレーにするから帰りに材料買ってきてだって」
「あー了解。ってなんで俺の方に連絡せずに紫音の方にメールしたんだあいつ……」
「蒼ちゃん既読遅いからじゃない? ほっといたら家に着くまでスマホ見なさそうだし」
まぁ確かに紫音の言う通りだから何も言えないけど。それにしたって俺と紫音が一緒に居なきゃ伝わらないだろ……
「全く、紫音と俺が常に一緒にいるとも限らないって言うのに」
「美琴ちゃんからしたらそれだけお前らは一緒にいると思われてるってことだろ? それと紫音ちゃん、素が出てるよ。また蒼詩のことちゃん付けで呼んでた」
「あっ……」
「まぁ大丈夫でしょ誰も聞こえてなかったみたいだし」
「な、なんだ、良かったぁ〜」
「良くない」
言うことを守らない奴にはお仕置が必要と言わんばかりに俺は紫音の頭に向かって持っていた教科者を振りかぶる。と言ってもさすがにこれ以上バカになるのは可哀想だし軽くだけど
「痛っ! もぅ、ぶつことないのに」
「お前も本当容赦ねぇな……それより、紫音ちゃんって普段からこいつの家で夕飯食べてんの?」
「うん、家お母さんが仕事で基本家にいないから」
「紫音は料理どころか何かを作ること全般出来ないしな。あ、でも汚部屋は綺麗に作れるか」
「綺麗な汚部屋ってどんなパワーワードだよ……」
なかなかのワードセンスだろう? あれは最早一種の芸術作品……っった! こいつ! こっちは手加減してやったのに今本気で足蹴りやがった!
「ちくしょう、事実を述べただけなのに……」
「まぁ、今のはお前が悪いな。これに懲りたら年頃の女の子のプライベートをあんまりベラベラと喋らないことだ」
「ふっ、コミュ障発揮して1部の女子としかまともに話せない外面イケメンの言葉程心に響かない物は無いな」
「あっ、 お前言いやがったな! しかも1番言っちゃ行けないやつを!」
「うるさい、事実だろこの運動神経と中途半端に整った顔しか取り柄のない外面クソイケメンが!」
「それ言ったらお前だって取り柄がない所が取り柄みたいなもんだろ!」
なるほど、いいだろうそっちがその気ならとことん相手やろうじゃないか。
「へぇ、言うじゃないの。いいぜ、その喧嘩買ってやるよ昼休み校庭のど真ん中集合な」
「いいぜ、やってやろうじゃねぇのお前も逃げんなよ」
「はいはい、そこまで。私を挟んで喧嘩しないでよ。どうせ昼休みになればなんだかんだ言って2人とも校庭になんて行かないんだし」
「紫音、お前は幼なじみだと言うのに俺の決意をわかっていないみたいだな」
「そんな決意分かりたくもないですぅ。あ、私この後係の仕事あるから行くね? 2人とも喧嘩しちゃダメだよー」
あいつ、言いたいことだけ言って行きやがった。それに1つ訂正するならばいつもは校庭に行かないのではなく行く必要が無いのだ。そこの所は間違えないで貰いたい。
「全く、あいつは男の決意をなんだと思ってるんだ」
「そうだそうだ。男にはな女には分からない負けられない戦いって言うのがあるわけよ」
「うんうん、その通り」
宏太の言う通りだ。男には譲れない戦いって言うのがあることを紫音は理解した方がいい……って、あれ?
「なぁ蒼詩」
「なんだ宏太。要件は2行にまとめろよ」
「短っ!? あーいや、なんだ、俺たちなんで喧嘩してたんだと思って」
「……確かに、なんかどうでもいい事な気もするけど」
「まぁいっか。それより、お前今日のお昼どうする?」
「今日は美琴のお弁当の日だ」
「あーそっか、今日火曜日だったな。あ、それじゃあ卵焼き1個くれよ!」
「仕方ないな。1個の半分だけだぞ?」
「ケチくさっ!?」
そんな事を話しているといつの間にか次の授業の予鈴が鳴っていた。これはまた遅刻ギリギリになりそうだ……
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