第24話 聖なる夜は2人で…⑤

館内マップを見た私たちは、まずは映画館に行くことに決めた。


この商業施設の2階にある映画館は県内最大級の規模を誇り、設備やフード・物販も凄く充実している。クリスマスだからか、入口ではデカデカと「カップル割」の文字が。とある恋愛映画をカップルで見ると2人で20%オフになるのだという。


そんな立て看板を見ていると古賀くんが、

「おっ!ラッキーじゃん!見ようぜその映画!」

と目を輝かせてズンズン奥へと進んでいく。


(も、もしかして、やっぱり古賀くんは…!)


どんどん膨らむ期待を胸に、私も慌てて彼の後を追いかけた。


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「♪〜」


古賀くんが鼻歌歌っている。

頭の上の方から聞こえてくるその鼻歌はどこか聞いたことのあるようで、しかしどこか音程が外れている。でもそれさえも愛おしい。


券の確認のために並ぶ待ち時間でさえも彼といたら短く感じる。これが好きという気持ちなんだろうか。




「お待たせしました!券の方を確認します」


私たちの番が来て、先程発券した券を確認してもらう。券にはデカデカと【カップル割引対象映画券】の文字が印字されており、また券自体がピンク色で少々恥ずかしい。古賀くんが係員の方に2枚提示した。


「カップルの方ですね!それではカップルの証として彼氏さんは右手で、彼女さんは左手でハート型を作ってください!」


おお!と騒めきが聞こえる。私はドキドキしながら震える左手でハートの片割れを作り、彼の右手に合わせた。


「はい!カップルであることが証明されました!それではあちら3番シアターにお進みください!」


拍手で見送られながら私たちは3番シアターに進む。恥ずかしすぎる…///


ハートを作ったとき、古賀くんはいつも通りのような感じだった。こういうことにはなれているのだろうか…?少しモヤッとする。


まもなく3番シアターに入り、自分達の席について、しばらく話したあと、映画の放映が始まった。



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「す、凄い映画だったね…」

「あ、ああ…」


やっちまった。

初デートでよりによってあんなハードな映画を観ることになるとは思わなかった。


映画のポスターをあらためて見ると、小さく「16禁」のマークが。めちゃくちゃ気まずい。


後方に立つ彼女の方を見る。やはりあんなシーンを見たからか、顔が赤いように見える。


「ごめんな!まさかあんな内容だったなんて知らなくてさ!」

「全然いいよ!ちょっと驚いただけだから」


謝る俺にはにかみながらも笑顔で返す葵さん。可愛い。




「昼前だけど、先にご飯行こうか。どこ行きたい?」


映画館を出た俺たちは早めの昼食を取ろうと、タブレットで取り込んだ館内マップで飲食店を吟味する。


「私はあまりお腹空いてないから、パンとかドーナツがいいな。古賀くんは?」

「俺もそれがいいな。質より量だし笑」

「じゃあさ、ここはどう?クリストン・ドーナツ。ここ行ってみたい!」

ということで、俺たちはドーナツ食べに行くことにした。




「まだ昼前なのにお客さん多いですね…」


フードコートに着いたのだが、ここも人でいっぱいだ。奇跡的に席を確保した俺たちは思い思いの昼食を取った。美味い。


さあ次の店に行こうと立ち上がったとき、横から走ってきた子どもが葵さんにぶつかってジュースをぶちまける。


「おい、クソガキ」一言文句を言ってやろうと俺が口出すと、葵さんは手を振って静止。

びっくりして泣いているその子に目線を合わせて落ち着かせる。


「お姉さんは大丈夫よ、だから泣き止んでください。さっきみたいに人がいっぱい居るところで走り回ると、誰かとぶつかって貴方が怪我したり相手が怪我してしまうかもしれないの。ジュースを持っていたら相手の服を汚してしまう場合もある。だから、ここではもう走っちゃダメよ。約束できる?」

子どもはうんと頷き、葵さんと指切りをした。

「わかった。ごめんなさいお兄さん」


その後母親が我が子を探しに来て、クリーニング代として1万円を渡して謝罪し、子どもと一緒に去っていった。


「…私の声、そんなに低いのでしょうか」

2人を見送りながら少し悲しげに言うので、俺はこういった。

「世界唯一の声で俺は好きだよ」と。

彼女がこのあと何か言ったが、残念ながら内容はわからなかった。


葵さんのスカートについたシミはあまり落ちなかったため、別の洋服を調達した。嬉しそうな表情の顔を見て俺も満足♪


そろそろあそこに行かないとな。

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