第6章 期末、夏季休暇、そして顕《あらわ》①
7月17日。
期末考査が終わり、全てのテストが返却された。この高校は赤点が45点未満と周りの高校に比べて高く、それが生徒たちからの悪評である「自称進学校」の所以の一つとなっているのだが、実は葵たちが入学する前までは40点未満だったのである。
この話を出したのはカワボな主人公、
彼の所属する1年5組はざわめいた。
自分たちの代から赤点上げるなんて!
先輩たちずるいよ!などなど。
仕方ない。運が悪かっただけだ。
同じく5組に所属する
「おっしぃ〜!あと1点じゃん!」
考査後に行われた席替えで後ろの席となったアキから声をかけられて、彼女は後ろを振り返った。
「アキ〜泣」
「ベソかくなよ笑また私が教えてやるからさ」
しょげた様子の彼女にアキはポンポンと頭を軽く叩いた。アキの答案を覗き見ると75点。
意外と、いや流石は文武両道の優等生である。
「すげーな!また
教室の前方で歓声が上がり、葵とアキは思わずそこに注目する。その輪の中心にいた玲と目が合い思わず目を逸らす。それを見ていたアキは少しだけ胸がいたんだ。
「や、やめてよ古賀君。恥ずかしいじゃないか」
まあまあ背の高い副島が顔を赤くし背伸びしたりジャンプしたりするが、机の上に乗った彼には届かない。
「いいじゃねーか。お前が頭いいてことをみんなに知ってもらった方が全体の学力が上がると思うし」
「で、でも」
「そうだ、勉強教えてくれよ。俺2回連続でほぼ全教科赤点だからさ」
「わ、私も!」
イケメンボイスが教室にこだまする。皆の視線が教室の前から後ろに移動した。注目を浴びたのは、やはり、田中葵。イケボでしかも手を挙げて立ち上がったがためにいやでも注目を浴びてしまったのだ。
「も、もしかして今の田中さん?」
「まさか笑 だってどう見たって綺麗目な女子だよ」
「イケボ女子…好き…」
「…おとこの娘?」
教室内はざわめき、葵は硬直してしまった。
アキが制服の袖口を引っ張って座るように促すも、気づかないでいる。
そのざわめきを霧散させたのが玲だった。
「ありがとう! 田中さん!」
玲は机から飛び降りて副島の答案用紙を彼に返すと、席の間を縫って葵の元にやってきた。葵の方が背が高いので玲は見上げるように言う。
「いや〜 赤点仲間がいて良かったわ!
これから一緒に勉強を頑張ろな!」
「は、はい!」
葵が赤面しながら返事をすると、すかさず玲が自分の右手と葵の右手を繋いだ。
「じゃ、これからよろしく。みんな、僕たちに応援の拍手をー!」
玲の合図で皆一斉に拍手を送る。
その間、彼は彼女にこう囁いた。
「その声、俺はとても好きだよ」と。
『本当の声』で。
7月21日。
いよいよ夏休みだ。
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